EP 30
貧乏王女の恩返し? 試食コーナー攻略戦
翌朝。
シェアハウスのリビングには、重苦しい空気が流れていた。
「……申し訳、ございませんでしたぁぁぁ!!」
リーザが畳(陽太が導入した)の上で、見事な土下座を決めていた。
昨日のファミレスでの記憶――機械に求婚し、絶叫し、おんぶされて帰ってきた醜態――が蘇り、彼女は顔を真っ赤にして縮こまっている。
「あ、あの時はどうかしていました……。糖分の悪魔に取り憑かれていたのです……。それに、リベラ様に奢っていただいたご恩も返せず、ご迷惑ばかり……」
「いいのよリーザ。面白かったし」
「そうですわ。王族が機械に求婚するなんて、歴史に残る珍事が見られましたもの」
キャルルとリベラがフォロー(?)するが、リーザの真面目な性格がそれを許さなかった。
「いいえ! このままではシーラン王家の名折れです! そこで今日は……私が皆様を『フルコース』にご招待いたします!」
リーザがバッと顔を上げ、宣言した。
「えっ、フルコース?」
「はい! お金はかけずに、でも最高に美味しいランチツアーです! 私についてきてください!」
◇
リーザに連れられてやってきたのは、街の中心部にある巨大な建物だった。
『スーパーマーケット・タローマート』。
太郎国の流通網が生んだ、食料品の殿堂だ。
「……リーザさん? ここはスーパーですわよね? レストランなんてありませんけれど」
リベラがいぶかしげに周囲を見渡す。
しかし、リーザは自信満々に鼻を鳴らした。
「ふふふ、甘いですリベラ様。ここには『選ばれし者』だけが楽しめる、無料のレストランがあるのです。……こちらです!」
リーザが忍び足で向かった先。
それは、精肉コーナーの一角にある――。
「さあ、前菜です! 『一口ウィンナーのソテー』です!」
そこは、ホットプレートを持ったおばちゃんが笑顔で立っている【試食コーナー】だった。
「「「……ここ!?」」」
「はい! ここは激アツなんです! 見てください、今日のラインナップはウィンナーだけじゃありません! あっちには『新発売のパン』、向こうには『冷奴』まであります!」
リーザは目を輝かせているが、リベラはあからさまに引いていた。
「ま、まさか、ここで立ち食いをする気ですの? ゴルド商会の令嬢である私が?」
「リベラ様、騙されたと思って一つどうぞ! 焼きたてですよ!」
リーザが爪楊枝に刺さったウィンナーを差し出す。
リベラは渋々、それを口に運んだ。
「……あら?」
「どうです?」
「美味しい……ですわ。焼きたてで、皮がパリッとしていて」
「でしょう!? タダで食べるご飯ほど美味しいものはないんです!」
リーザの力説に、キャルルも「私も食べるー!」と参戦した。
俺も一つ頂いたが、確かに美味い。空腹には最高のスパイスだ。
「さあ、次はメインディッシュの『サイコロステーキ』ですよ! あそこはお一人様一つまでの激戦区です!」
リーザの指揮のもと、俺たちは広い店内を巡り歩いた。
パンを齧り、豆腐を味わい、フルーツコーナーでカットメロンを頂く。
まるで宝探しのような楽しさに、最初は嫌がっていたリベラも「次はヨーグルトですわ!」とノリノリになってきた。
一通り巡った後、俺たちは店の外にあるベンチで休憩することになった。
「ふぅ、美味しかったですね! でも……やっぱり喉が渇きますわね」
リベラがハンカチで口元を拭う。
試食コーナーには飲み物がないのが欠点だ。
「お任せください! ドリンクも手配済みです!」
リーザが指差した先。
そこにあったのは、公園の片隅にある「水道の蛇口」だった。
「あそこのお水は冷たくて美味しいんです! もちろん飲み放題ですぅ!」
満面の笑みで親指を立てるリーザ。
しかし、リベラの表情が凍りついた。
「……まさか、生水を飲めと?」
「えっ? ダメですか?」
「ダメに決まっていますわ! お腹を壊します! 私は殺菌されたミネラルウォーターしか飲みませんのよ!」
「ええーっ!? せっかくのフルコースがぁ……」
リーザがショックを受ける。
この世界の衛生観念では、確かに直飲みはチャレンジャーだ。リーザの胃袋が強すぎるだけだ。
せっかくの彼女の恩返しを、台無しにはしたくない。
「……仕方ないな」
俺は立ち上がった。
「リーザちゃんの顔を立てて、俺がその水を『最高級ウォーター』に変えてやるよ」
俺は腰の【雷霆】(今は布団たたきモード)を手に取った。
(頼むぜ相棒。今度は浄水器だ)
『……主よ。我は最近、自分が何の武器だったか忘れかけているぞ』
(神殺しだよ。菌もウイルスも殺せるだろ?)
『……なるほど、一理ある』
妙な納得をしてくれた雷霆が光を放つ。
「形状変化!」
「【雷霆】――魔導携帯浄水器・モード!」
カシャン!
雷霆は、複雑なフィルターと蛇口を備えた、銀色のタンクへと変形した。
俺はそれを水道の蛇口にセットし、コックを捻る。
トクトクトク……。
フィルターを通し、魔力で殺菌・濾過された水が、キラキラと輝きながらカップ(持参した)に注がれる。
「さあ、どうぞ。不純物ゼロ、ミネラル添加済みの特製ウォーターだ」
「まあ……!」
リベラが恐る恐る口をつける。
「……美味しい! 雑味が全くありませんわ! これなら飲めます!」
「わぁっ! いつもの水道水が、甘いお水になりましたぁ!」
キャルルとルナもゴクゴクと飲む。
リーザは感動して俺の手を握った。
「すごいです陽太さん! これで私の『0円フルコース』は完璧です!」
「ああ、完璧だな」
俺たちはベンチで乾杯した。
ウィンナーとパンの試食、そして美味しい水。
貧乏くさいかもしれないが、みんなで笑って食べるこれは、確かに「ご馳走」だった。
――しかし。
俺たちの胃袋は、試食程度では満足していなかった。
グゥゥゥゥ……。
盛大な腹の虫が、4人同時に鳴り響いた。
「「「「……足りない」」」」
所詮は試食。一口サイズだ。
食欲に火がついた俺たちの前に、店内からけたたましいベルの音が響いてきた。
チリンチリンチリン!!
『只今より! タイムセールを開催しまーす!!』
「こ、これは……!」
リーザの目の色が、再び狩人のそれ(ドリンクバーの時と同じ)に変わった。
「行きますよ皆さん! ここからが本当の戦場です!」




