EP 27
伝説のライブ『ラブ&マネー』
王都・中央広場。
数万人の観衆が埋め尽くすメインステージは、先ほどの聖女ノアの余韻で、静謐な空気に包まれていた。
「……次は誰だ?」
「無名の新人らしいぞ」
「聖女様の後の出番なんて、可哀想になぁ」
ざわめきの中、ステージの照明が突如として落ちた。
ブォン……!!
地響きのような重低音が、広場の空気を震わせた。
PA席(音響ブース)にいる流賀隆史が、汗だくになりながらフェーダーを握っている。彼の手元にあるのは、ただの機材ではない。
「頼むぞ、相棒……! お前の本気を見せてやれ!」
隆史が接続したのは、形態変化させた伝説の武具『雷霆・サウンドシステムモード』だ。
神殺しの雷鳴を、音響エネルギーへと変換する魔改造。
ズンドコズンドコズンドコ……!!
心臓を叩くBPM170のビート。
暗闇を切り裂くように、深紅と黄金のレーザーライトが乱舞する。
「王都のみんなー! 起きてー! 稼ぐ時間だよーっ!!」
スポットライトが中央を照らす。
そこに立っていたのは、金貨を散りばめたような派手なドレスに身を包んだリーザだった。
聖女の「白」とは対極の、欲望の「金」。
彼女がマイクを握りしめると同時に、キャルルが最前列でサイリウム(誘導棒)を振った。
「いくわよー!! せーのっ!!」
【Intro】
(ドラムロールから、ブラスセクションとシンセが炸裂!)
All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!
All: (Fu Fu!)
All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!
All: (Yeah!!)
爆音。
観客が度肝を抜かれた。聖女のハープの音色とは違う、脳髄を直接刺激する電子音。
【Aメロ】
(少し気だるげに、でもキュートに)
朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
私はまだ眠いわ (おはよー!)
朝シャンしなきゃ (Fu!)
朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)
鏡の前で メイクをしなきゃ
(魔法をかけて〜! キュルルン♪)
最初は、王道の可愛いアイドルソングに見えた。
観客たちも「お、可愛いじゃん」「普通のアイドルかな?」と、リズムに乗り始める。
【Bメロ】
(リズムが変わり、徐々に盛り上がる)
さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)
のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)
扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)
キャルルの扇動に合わせて、少しずつコールが起き始める。
だが、ここからが本番だ。
リーザの瞳が、獲物を狙う獣のようにギラリと光った。
【サビ】
(最高に明るく、爆発するように!)
今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)
全て上手くいくわ (絶対!)
愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)
観客の手が止まる。「え? 今なんて言った?」
『愛も富も』?
ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)
貴方の愛で生きていける (Fuuu〜!)
ザワッ……!
広場にどよめきが走った。
ダイヤ? 土地? キャッシュ?
清純派アイドルの口から出るはずのない単語の数々。
だが、その直球すぎる欲望に、観客の中の何かが疼き始めた。
【Outro】
(キラキラした音と共に)
だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
だから、何処までもついて来てね♡
(一生ついていくよー!!)
ダーリン!
(チュッ♡)
1番が終わり、間奏に入る。
ステージ袖で、ルナが杖を掲げた。
「行きますよ……幻影魔法『ゴールデン・レイン』!」
ステージの上空から、キラキラと輝く「金貨の幻影」が降り注ぎ始めた。
そして、リーザの表情が一変する。
作り笑顔が消え、昨日の夜、焼き鳥を齧りながら見せた「本音の顔」になった。
「ここからが現実だよ! ついてきて!」
【Aメロ】
夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)
お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)
スーパーのシール見なきゃ (半額!)
ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)
歌詞が変わった。
キラキラした朝の風景から、一気に夕方のスーパーへ。
観客の労働者たちが、ハッとして顔を上げた。
「半額シール」……「ポイントカード」……それは、彼らの日常そのものだ。
家賃のために 節約しなきゃ
(現実はシビア〜! ガマン!)
「うぉぉおおお!!」
誰かが叫んだ。
「分かる! 分かるぞその気持ちぃぃ!!」
聖女の歌にはなかった共感が、爆発的に広がっていく。
【Bメロ】
さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)
地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)
マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)
観客の目が変わった。
崇拝ではない。同志を見る目だ。
この子は俺たちと同じだ。金に苦労して、それでも夢を見ている!
PA席の隆史が叫んだ。
「行けリーザ殿! 全部ぶちまけろ!」
【サビ】
(1番以上に欲張りに、高らかに歌い上げる!)
今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
全部手に入れるわ (強欲!)
夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)
会場のボルテージが臨界点を超えた。
「どっちも好きー!!」の大合唱が王都を揺らす。
聖女への遠慮など吹き飛んだ。人間だもの、金が好きで何が悪い!
株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)
その時、奇跡が起きた。
幻影の金貨に混じって、本物の硬貨がステージに投げ込まれ始めたのだ。
チャリン! チャリン! ジャラジャラジャラ!!
銅貨が、銀貨が、そして金貨が。
物理的なスーパーチャットの雨が、リーザへと降り注ぐ。
「きゃあ! 痛い! でも嬉しい!」
リーザは金貨の雨を浴びながら、最高の笑顔で舞った。
【Outro】
(キラキラした音と共に)
だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
だから、何処までもついて来てね♡
(一生ついていくよー!!)
観客全員が拳を突き上げた。
労働者も、騎士も、商人も。欲望を肯定された人々が熱狂する。
ダーリン!
(チュッ♡)
フィニッシュ。
雷霆のスピーカーから、最後の一音が消えると同時に、地鳴りのような歓声が上がった。
「リーザ! リーザ!」
「俺の金貨を受け取ってくれぇぇ!!」
「最高だ! 明日も働くぞチクショウ!」
ステージの上は、足の踏み場もないほどの財宝で埋め尽くされていた。
リーザは肩で息をしながら、その光景を見て涙ぐんだ。
「……見た? 隆史さん、みんな……」
「ああ」
隆史はブースの中で、親指を立てた。
「これが君の力だ。欲望の歌姫、誕生でござるな」
VIP席で見ていたリベラも、シャンパングラスを傾けて微笑んだ。
「ふふ、素晴らしい集金力。これで私の投資も回収できそうですわ」
聖女の祈りは天に届いたかもしれない。
だが、リーザの欲望は、地を這う人々の心に届き、その財布をこじ開けたのだった。




