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EP 26

前夜祭とライバル登場

 王都・大感謝祭、前夜。

 街は熱気に包まれていた。

 大通りには無数の屋台が並び、色とりどりの魔法提灯が夜空を焦がしている。

 香ばしい串焼きの煙、甘い菓子の香り、そして明日への期待に胸を膨らませる人々の喧騒。

 だが、そのお祭りムードの裏側、メインステージの袖に、小さく震える影があった。

「……勝てない。あんなの、勝てっこないよぉ……」

 リーザ・マーメイドである。

 彼女はステージの柱の陰から、現在行われている「前夜祭スペシャルライブ」を覗き見ていた。

 ステージの中央に立っているのは、隣国・聖教国から招かれたゲスト。

 聖女アイドル『ノア』だ。

「皆様に、女神様の祝福がありますように……♪」

 純白のドレス。背中には本物の天使のような羽飾り。

 彼女が優しく微笑み、清らかな歌声を響かせると、観客たちは涙を流して合掌している。

「尊い……! 心が洗われる……!」

「ノア様ぁ! お布施を受け取ってください!」

「いいえ、お金はいりません。貴方の笑顔が、私への報酬ですから」

 ズドーン。

 その言葉が、リーザの頭上に岩のように落ちてきた。

「おかねはいりません……笑顔が報酬……」

 リーザはガックリと膝をついた。

「なにそれ……聖人じゃん。女神じゃん。それに比べて私……」

 彼女は自分の手元にある楽譜を見た。

 『株券欲しい♪ お城も欲しい♪』

 『スーパーのシール見なきゃ(半額!)』

「……汚い。私、汚すぎるよぉ……!」

 リーザが頭を抱える。

 圧倒的な「清廉潔白」という光を前に、自分の「強欲」という闇が恥ずかしくなったのだ。

 観客だって、やっぱり綺麗なアイドルがいいに決まっている。明日のステージで、パンの耳をかじる貧乏神のような歌を歌ったら、石を投げられるかもしれない。

「帰りたい……こたつで廃棄弁当食べて寝たい……」

 リーザが逃げ出そうと踵を返した、その時だ。

 ポンッ。

 誰かの手が、彼女の頭に優しく乗せられた。

 微かに香る、コンビニのおでんの匂い。

「……隆史さん?」

 振り返ると、両手に焼き鳥とラムネを持った流賀隆史が立っていた。

 その後ろには、口の周りをソースだらけにしたキャルルと、リンゴ飴を舐めているルナもいる。

「リーザ殿。敵情視察でござるか?」

「うぅ……隆史さん……私、無理かも……」

 リーザは泣きそうな顔で訴えた。

「だって見てよ、あのキラキラ感! 私みたいな貧乏人が同じステージに立ったら、公開処刑だよぉ!」

 隆史は焼き鳥を一本、リーザに差し出した。

「食うでござる」

「え?」

「タレだ。皮だ。カロリーの塊だぞ」

 リーザはおずおずと受け取り、パクリと食べた。

 甘辛いタレと脂の旨味が口いっぱいに広がる。

「……おいひい」

「リーザ殿。あそこにいる観客(民衆)をよく見るでござる」

 隆史はステージ前の群衆を指差した。

「彼らは今、聖女の歌に癒やされている。だが……その顔を見てみろ。どこか『遠い存在』を崇めるような顔だ」

「……?」

「彼らは明日も働く。家賃を払い、税金を納め、スーパーの特売に並ぶ。……聖女ノア殿の『お金はいりません』という言葉は美しいが、日々の生活に追われる彼らの『本音』ではない」

 隆史はニヤリと笑った。

「だが、君は違う」

「君はパンの耳の味を知っている。月末の残高に怯える恐怖を知っている。そして何より……『金が欲しい!』と叫ぶことのエネルギーを知っている!」

 リーザがハッとした。

「清貧などクソ喰らえでござる。君には君の武器がある。それは……泥水をすすってでも生き抜こうとする『ハングリー精神(雑草魂)』だ!」

 キャルルがニッと笑い、拳を突き出した。

「そうよ。あんたの歌は、生きるための叫びでしょ? 聖女サマには歌えない歌よ」

 ルナもニコニコと頷く。

「私、リーザさんの歌の方が好きですよ。だって、とっても人間らしくて……燃え上がる炎みたいです!」

「みんな……」

 リーザは焼き鳥の串を握りしめた。

 腹の底から、熱いものがこみ上げてくる。

 そうだ。私は聖女じゃない。

 私は、タローソンの廃棄弁当と、みんなの支えで生きている、世界一図太いアイドルだ。

「……うん。私、歌う」

 リーザは顔を上げた。その瞳から迷いは消え、代わりにギラギラとした「欲望」の炎が灯っていた。

「聖女が『癒やし』なら、私は『活力』をあげる! みんなの財布の紐を、欲望の力で引きちぎってやるんだから!」

「その意気でござる!」

 そこへ、リベラが電卓を片手にやってきた。

「あら、ようやく覚悟が決まりましたの? ……ちなみに、聖女ノアの事務所には『明日の出番、少し時間を押すかもしれませんわ』と根回し(圧力)しておきました」

「さ、さすがリベラ様……! 汚い! 手口が汚いです!」

 チーム・サスガの面々は顔を見合わせ、笑い合った。

「よし! 行くぞチーム・サスガ!」

「「「おー!!」」」

 円陣を組む彼らの頭上で、前夜祭の花火がドーンと打ち上がった。

 聖女の祈りか、魔女の欲望か。

 明日のメインステージ、伝説が生まれる。

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