EP 25
特訓! 地獄のアイドル合宿と「欲望の聖歌」
『タローソン王宮特別支店』のバックヤード。
普段は在庫の段ボールが積まれているだけの倉庫が、今は熱気と汗の臭いに満ちていた。
「はい、ワンツー! ワンツー! 腹筋に力入れて!」
「ひぃぃぃ! も、もう無理ですぅ! 腹筋が割れますぅ!」
ジャージ姿のキャルルが鬼教官となり、リーザに地獄のトレーニングを課していた。
空気椅子での発声練習。反復横跳びしながらの笑顔キープ。
元王女のアイドルに対し、S級武闘家のフィジカルトレーニングは過酷すぎた。
「……見ていられないでござるな」
店長の流賀隆史は、隅っこでスポーツドリンク(廃棄)を用意しながら呟いた。
その横では、ルナが杖を振って演出の練習をしている。
「ここで『爆発』ですね! ドカーン! ……あ、倉庫の壁が焦げちゃいました」
「ルナ殿! 手加減して! 敷金が!」
カオスな合宿風景。
そこへ、裏口のドアがガチャリと開いた。
「やあみんな。調子はどうだい?」
現れたのは、パーカーのフードを目深に被ったプロデューサー・タロウ(国王)だ。
手には一枚の楽譜と、デモテープ(魔石プレイヤー)を持っている。
「あ、プロデューサーさん! 助けてください! キャルルちゃんが鬼なんです!」
「ははは、基礎体力は大事だよ。……それよりリーザちゃん、新曲ができたよ」
太郎はニヤリと笑い、楽譜をリーザに渡した。
タイトルは――『ラブ&マネー』。
「らぶ・あんど・まねー……?」
「そう。今回のテーマは『剥き出しの欲望』だ。清純派なんて古い。君のハングリー精神を、そのまま歌詞にしたんだ」
太郎がプレイヤーを再生する。
ズンドコズンドコ……ピコピコピーン!
BPM170の超アップテンポなシンセポップが流れ出した。
「さあ、歌ってみてくれ。まずは1番から!」
リーザは息を整え、マイクを握った。
イントロのブラスセクションが炸裂する。
「愛!アイ!愛!アイ!ラ~ブラブ!」
「マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!」
キャルルとルナが合いの手を入れる。
「朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
私はまだ眠いわ (おはよー!)
朝シャンしなきゃ (Fu!)
朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)」
リーザの歌声は完璧だ。透き通るような高音、あざといまでの可愛さ。
これぞ王道アイドル。
しかし、太郎は腕組みをして首を傾げた。
「うーん……上手いけど、なんか足りないな。『魂』がこもってないというか」
「ええっ? 完璧に歌えましたよ?」
「綺麗すぎるんだよ。もっとこう、君の『本性』を出さないと」
太郎は楽譜のページをめくった。
「じゃあ次、2番いってみようか。ここが勝負だ」
2番のAメロ。
リーザはその歌詞を見て、目を見開いた。
「えっ? こ、これ……昨日の私の独り言じゃないですか!?」
「そう。君がレジ打ちしながらブツブツ言ってた愚痴を、そのまま採用した」
太郎がサムズアップする。
リーザは顔を真っ赤にしたが、イントロが再び流れる。
やるしかない。
彼女は腹を括り、地声に近いトーンで歌い出した。
「夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)
お腹はもうペコペコよ (ぐ~!)」
隆史が合いの手を入れる。「(ぐ~!)」
「スーパーのシール見なきゃ (半額!)
ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)」
リーザの歌声に、熱が帯び始めた。
これは演技ではない。魂の叫びだ。
「家賃のために 節約しなきゃ
(現実はシビア~! ガマン!)」
歌いながら、彼女の脳裏に浮かぶのは、今朝食べたパンの耳。水で薄めたカルピス。リベラからの請求書。
悔しさが、貧しさが、彼女の喉を震わせる。
「さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)
地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)
マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)」
そして、サビ。
彼女の中の怪物が覚醒した。
「今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
全部手に入れるわ (強欲!)
夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)」
リーザは拳を突き上げた。
その瞳は「¥」マークに輝いている。
「株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu~!)」
ジャジャーン!!
曲が終わった瞬間、倉庫内は静まり返った。
全員が圧倒されていた。
ただ可愛いだけの歌ではない。聴く者の金銭欲を刺激し、生存本能に訴えかける、悪魔的なアンセム。
「……素晴らしい!!」
バチバチバチ!
太郎が激しく拍手をした。
「それだ! その『全部よこせ』という気迫! これなら数万人の観客(社畜)の心を鷲掴みにできる!」
「はぁ……はぁ……私、気持ちよかった……」
リーザは肩で息をしながら、恍惚の表情を浮かべていた。
自分の欲望を肯定される快感。
そこへ、リベラが電卓片手に入ってきた。
「ふふ、外まで聴こえていましたわよ。……『株券欲しい、お城も欲しい』。素晴らしい歌詞ですわね」
リベラは眼鏡を光らせた。
「この曲なら、スポンサーもつきますわ。証券会社、不動産屋、消費者金融……片っ端から営業をかけましょう」
「商魂が逞しすぎるでござる……」
隆史は引きつった笑いを浮かべた。
だが、確信した。
この曲は売れる。間違いなく売れる。
ただし、アイドルの曲としてではなく、「拝金主義者の聖歌」として。
「よし! 本番まであと3日! 死ぬ気で仕上げるよ!」
「「「おー!!」」」
タローソンのバックヤードから、伝説が始まろうとしていた。
……なお、この騒音で近所から苦情が来たらしく、後で衛兵が注意しに来たのは言うまでもない。




