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EP 23

密着! タローソン24時

 「いいでござるか、皆の衆。今日は絶対に、絶対に粗相のないように頼むでござるよ!」

 開店前の『タローソン王宮特別支店』。

 店長の流賀隆史は、バックヤードで円陣を組んだスタッフ(居候たち)に悲痛な叫びを上げていた。

「今日は王宮広報誌『月刊・ロイヤルライフ』の取材が入っている! ここで『普通の優良店』であることをアピールし、一般客を取り戻す! これが我々のミッションでござる!」

 隆史の目は血走っていた。

 最近の客層は、冒険者、指名手配犯、魔族ばかり。このままでは「闇の補給基地」として認定されてしまう。

 この取材は、市民権を取り戻すラストチャンスなのだ。

「りょーかーい。普通にすればいいのよね、普通に」

 キャルルがからあげクンをつまみ食いしながら答える。

「任せてください! アイドルとしてカメラ映りには自信があります!」

 リーザが手鏡で前髪を直す。

「ふふ、お店を綺麗に見せる魔法ならお任せを」

 ルナが杖を構える。

「(……不安しかない)」

 隆史は胃薬を飲み込み、表へと出た。

 ***

 午前10時。取材班が到着した。

 記者は眼鏡をかけた真面目そうな女性エルフ、カメリナだ。

「本日はよろしくお願いします。噂の『タローソン』、その人気の秘密に迫りたいと思います」

「ははは、どうぞどうぞ! 安心・安全がモットーの、極めて庶民的な店ですよ!」

 隆史は爽やかな営業スマイル(引きつり気味)でカメラを迎えた。

 順調だ。店内は清掃され、商品は綺麗に陳列されている。

 このまま平和に終われば――。

 ウィィィィン……

 自動ドアが開いた。

 最初の客は、非番の勇者リュウだった。

「ういーっす店長。ポテチの『コンソメWパンチ』入荷した?」

 リュウはジャージ姿で入店し、スナック菓子を手にレジへ来た。

 ここまではいい。庶民的だ。

 しかし、リュウは袋を開けようとして眉を顰めた。

「ん?……硬ぇな、この袋。マジックカットが機能してねぇぞ」

 シャランッ……!!

 リュウの腰から、聖なる光が溢れ出した。

 彼が抜いたのは、魔王すら切り裂く伝説の聖剣**『エクスカリバー』**。

「ふんっ!!」

 ズバァァァン!!

 閃光一閃。

 ポテチの袋が綺麗に開封された。ついでにレジカウンターの端が少し切れた。

「ひぃぃっ!?」

 記者カメリナが腰を抜かす。

「あ、あの店長さん!? 今、聖剣でポテチを……!?」

「い、いえ! あれは当店の『セラミックカッター』でござる! よく切れるでしょう? ははは!」

 隆史は冷や汗ダラダラで誤魔化した。

 リュウは「やっぱポテチは聖剣で切ると味が変わるな」とか言いながら去っていった。

 ***

 気を取り直して取材再開。

 カメラが雑誌コーナーへ向かう。

 そこには、漆黒のスーツを着た魔界の貴公子ルーベンスが、競馬新聞を広げていた。

「おや、あちらのお客様は……?」

「あ、あれはただの熱心な読書家の方で……」

 その時。ルーベンスが新聞を握り潰し、店内に響く大声で絶叫した。

「差せぇぇぇぇ!! 殺せぇぇぇ!! 首を取れぇぇぇ!!」

 ラジオの実況中継イヤホンを聞いていたのだ。

 しかし、その言葉選びはあまりにも物騒だった。

「ひぃっ! さ、殺人予告!?」

「ち、違います! あれは……そう、演劇の練習! 彼は舞台俳優なんでござるよ!」

 隆史のフォローも限界に近づいていた。

 カメリナ記者のメモ帳には『客層:極めて暴力的』と書き込まれている。

 ***

 「さ、最後は当店の看板娘をご紹介しましょう!」

 隆史は一発逆転を狙い、リーザを呼んだ。

 彼女の愛らしい笑顔なら、好感度アップ間違いなしだ。

「リーザさーん!」

「はーい♡」

 リーザがカメラの前に飛び出してきた。

 完璧なアイドルスマイル。キラキラしたオーラ。

 勝った。これで勝てる。

 しかし、リーザは懐から一枚のフリップボード(段ボール製)を取り出し、カメラのレンズに押し付けた。

【緊急告知! リーザちゃんの生活費振込先はこちら!】

【王都銀行 ○○支店 口座番号1234567】

【備考:今なら振込名義を呼ぶ特典付き♡】

「全国の皆様ー! アイドルもかすみだけじゃ生きていけません! 今すぐお近くの銀行へGO! 御縁(五円)をお待ちしてます!」

「カットォォォォ!!」

 隆史がタックルしてリーザをフレームアウトさせた。

「な、何してるでござるか! 公共の電波(雑誌)で乞食行為はNGでござるよ!」

「え〜? チャンスだと思ったのにぃ!」

 カメリナ記者は青ざめた顔でペンを走らせていた。

 『店員:金銭への執着が異常』

 ***

 翌日。

 発売された『月刊・ロイヤルライフ』の特集記事。

 その見出しは、隆史の期待を粉々に打ち砕いた。

 【特集:魔境! 王宮の闇に潜む『タローソン』の実態!】

 ~聖剣使いを用心棒にし、魔族が殺戮を叫び、看板娘が金を無心する……ここが現代の伏魔殿だ!~

 記事には、引きつった笑顔の隆史の写真と共に、『全てを裏で操る暗黒店長フィクサー』というキャプションが添えられていた。

「……終わった」

 隆史は雑誌を床に落とし、膝から崩れ落ちた。

 一般客からの評判は地に落ちた。

 しかし。

「おい店長! ここに来れば骨のある奴と戦えるって本当か!」

「へへへ、ここが魔王軍の秘密アジトか……俺も仲間に入れてくれ!」

 記事を見た荒くれ者たちが、さらに集まってきてしまった。

 売上は過去最高を更新したが、隆史の胃に開いた穴も過去最大となったのだった。

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