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EP 22

ルナの家庭菜園(魔界植生)

 シェアハウス『タロウ・ハイツ』のリビング。

 店長の流賀隆史は、リベラから送られてきた今月の請求書(家賃+食費+先日のデパートでの精神的慰謝料等)を見て、頭を抱えていた。

「……食費が高い。高すぎるでござる」

 原因は明らかだ。

 キャルルの肉食獣並みの食欲。

 リーザの際限ないスイーツ要求。

 これらがボディブローのように家計を圧迫している。

「ふふん、タカシさん。お困りのようですね?」

 そこへ、エプロン姿のルナ・シンフォニアが得意げに現れた。

 手にはスコップとじょうろを持っている。

「ルナ殿? その格好は?」

「食費削減作戦です! 私、ベランダで『家庭菜園』を始めようと思います!」

 ルナは窓の外、狭いベランダを指差した。

「野菜を買うから高いんです。自給自足すればタダ! しかも採れたて新鮮! 私、エルフですから植物の扱いはプロですよ?」

「おお……! まともな提案でござる!」

 隆史は感動した。

 災害級魔法を使う彼女だが、本来は森の民。植物を育てることに関しては信頼できるはずだ。

「よし、許可する! 今夜は採れたて野菜のサラダでござるな!」

「はい! お任せください! ……ふふ、ちょっと『魔法』も使っちゃおうかな」

 ルナは嬉々としてベランダへ出て行った。

 隆史はその背中を見送りながら、平和なティータイム(廃棄のお茶)を楽しんでいた。

 ――数分後。

 ズズズズズ……ゴゴゴゴゴ……!!

 突然、アパート全体が激しく揺れ始めた。

 地震? いや、ベランダの方から不気味な地響きが聞こえる。

「な、何事でござるか!?」

 隆史が窓を開けた瞬間。

 彼の視界は、**「緑」**に埋め尽くされた。

「うわあああっ!?」

 そこはもうベランダではなかった。

 アマゾンの密林だった。

 太い蔦が手すりを破壊して伸び放題になり、熱帯雨林のような湿気が立ち込めている。

「ル、ルナ殿!? 何をしたでござるか!」

 ジャングルの奥から、土まみれのルナが顔を出した。

「あ、タカシさん! 見てください! 『トマト』の種を植えて、世界樹の成長促進魔法をかけたら、すっごく元気になっちゃいました!」

 元気などというレベルではない。

 彼女が指差した先には、大人の背丈ほどもある巨大な赤い球体が脈打っていた。

 ドクン……ドクン……

「こ、これはトマト……? まるでモンスターの卵……」

「栄養満点ですよぉ。さあ、収穫しましょう!」

 ルナが無邪気に近づこうとした、その時だ。

 ギョロリ。

 トマトの表面に、巨大な「目」が開いた。

 そして、裂けた口から鋭い牙が覗く。

「ミズヲ……ヨコセ……!!」

 ギャオオオオオン!!

 トマトが咆哮した。

 それは野菜ではなかった。魔界の暴食植物、**『キラー・トマト(変異種)』**だった。

「しゃ、喋ったぁぁぁ!? トマトが喋ったでござるぅぅ!!」

「あら? 元気が良すぎて反抗期みたいですね」

 キラー・トマトは触手のような蔦を伸ばし、隆史の足を掴んだ。

「ケツエキ……水分……!!」

「ひぃぃぃ! 吸われる! 拙者の薄いトマトジュース(血液)が吸われるぅぅ!」

 隆史が逆さ吊りにされ、トマトの巨大な口へと運ばれていく。

 絶体絶命。

 食費を浮かすどころか、自分が食糧になろうとしていた。

「タカシ!!」

 ドゴォッ!!

 爆音と共に、リビングの窓ガラスを突き破って影が飛び出した。

 キャルルだ。

 彼女は空中で一回転すると、安全靴の踵をトマトの脳天(ヘタの部分)に叩き込んだ。

「野菜の分際で、私の家主に手を出してんじゃないわよッ!!」

 ブシャアアアアア!!

 トマトが破裂した。

 飛び散る赤い果汁。断末魔を上げる野菜。

 隆史はベチャッと床に落ちた。

「げほっ、ごほっ……助かった……キャルル殿……」

「まったく、世話が焼けるわね」

 キャルルは飛び散ったトマトの果肉を指ですくい、ペロリと舐めた。

「……ん? これ、結構イケるわよ」

「え?」

「甘みが強くて、酸味も程よい。……ねえルナ、マヨネーズ持ってきて!」

 そこからのキャルルは早かった。

 倒したキラー・トマトの残骸を解体し、ルナが生成したキュウリ(これも若干動いていたが無視した)と共にボウルへ放り込む。

「へいお待ち! 『魔界トマトのシーザーサラダ・討伐仕立て』よ!」

 テーブルに並ぶ、山盛りのサラダ。

 隆史はおずおずと口に運んだ。

「……う、美味い!? なんでござるかこの濃厚な味は!」

「魔力を含んでますからね! 栄養価は通常の100倍です!」

 ルナがニコニコと笑う。

 結果オーライ。食費も浮いたし、美味いし、すべて解決――

 ピンポーン。

 インターホンが鳴った。

 現れたのは、仁王立ちのリベラだった。

 彼女の視線は、ジャングルと化したベランダ、破壊された手すり、そしてトマトまみれのリビングに向けられている。

「……皆様?」

 リベラが眼鏡をクイクイと押し上げ、電卓を取り出した。

「ベランダの修繕費、外壁のクリーニング代、近隣住民への精神的慰謝料……しめて金貨50枚ですわ」

「「「ごめんなさいいいいい!!」」」

 三人は床に額を擦り付けた。

 節約した食費(数百円)に対し、賠償金(数百万円)。

 タロウ・ハイツの家計は、今日も赤字の海を漂うのだった。

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