EP 21
極貧アイドルの「0円フルコース」
シェアハウスの朝食格差から数時間後。
リーザが神妙な面持ちで、隆史、キャルル、ルナの三人を呼び止めた。
「あのね、私、反省したの」
「反省? 何をでござるか?」
「いつもみんなに奢ってもらってばかりで……私、心苦しいですわぁ。アイドルとして、ギブ・アンド・テイクは基本だもん!」
リーザはドン! と胸を叩いた。
「だから今日のランチは、私がみんなをご招待します! **『リーザ特製・スペシャルフルコースツアー』**へ!」
「えっ、リーザ殿が!?」
「マジ? 明日は槍でも降るんじゃない?」
「わあ、楽しみです!」
隆史たちは色めき立った。
あの守銭奴で万年金欠のリーザが、自腹を切るというのか。
まさか、隠し財産でもあったのか?
「ついて来て! 極上の体験をさせてあげるから!」
自信満々のリーザに連れられ、一行は街へと繰り出した。
***
【コース1:前菜&メインディッシュ】
場所:スーパー『タローマート』 惣菜コーナー
「さあ、着いたよ! ここがランチ会場です!」
「……スーパーマーケットでござるな」
リーザは迷わず、精肉売り場の角にある**「試食コーナー」**へと直行した。
そこでは、おばちゃんがホットプレートでウィンナーを焼いている。
「はい、みんな並んで! 一人一本までだよ!」
リーザは爪楊枝に刺さった**『一口ウィンナー』**を恭しく受け取り、隆史に渡した。
「どうぞ、本日のオードブル『ポークの鉄板焼き・ピンチョススタイル』です♡」
「……試食でござるよな?」
「続いてこちら! 『新商品・一口ヨーグルト』! デザートも完備だよ!」
リーザは慣れた手つきで店内を巡回し、パンの切れ端、チーズの欠片、謎の健康茶などを次々と確保していく。
「ふふん、どう? いろんな味が楽しめて、しかも0円! 栄養バランスもバッチリ!」
「恥ずかしい! リーザ、周りの視線が痛いわよ!」
キャルルが顔を真っ赤にして叫ぶ。
しかし、ルナだけは「わあ、バイキングみたいです!」と喜んで楊枝を加えていた。
***
【コース2:ドリンクバー】
場所:王都中央公園 水飲み場
「ふぅ、お腹いっぱい(?)になったところで、喉を潤しましょうか」
リーザが案内したのは、公園の公衆トイレの横にある水飲み場(蛇口)だった。
「こちら、王都の地下水脈から汲み上げた『天然ミネラルウォーター』のドリンクバーです♡」
「水道水でござる!!」
隆史がツッコミを入れるが、リーザは気にしていない。
彼女は蛇口をひねり、手で水をすくってゴクゴクと飲んだ。
「ぷはぁっ! 冷たくて美味しいよ! しかも飲み放題! 時間制限なし!」
「……まあ、水はタダでござるが……」
「ルナちゃん、魔法で氷出せる? オンザロックにしようよ!」
「はい! お任せください!」
ルナが氷魔法で蛇口を凍らせかけ、隆史が慌てて止めるという一幕があった。
***
【コース3:エンターテインメント】
場所:書店『タロウ・ブックス』
「お腹も満たされたし、次は教養の時間だよ」
次に一行が連行されたのは、大型書店だった。
リーザは雑誌コーナーの前に陣取ると、**『週刊アイドル・ファン』**を手に取った。
「ここは『文字のテーマパーク』! なんと、最新の情報を読み放題なんです!」
「立ち読みでござるな!?」
リーザは真剣な眼差しでページをめくる。
「見て見てキャルルちゃん、この服可愛いよ! ……あ、ページに折り目つけちゃダメだよ! 店員さんに怒られるから!」
「知ってるわよ! ていうか足疲れた!」
リーザの「0円読書術」は徹底していた。
決して商品は汚さない。長時間居座らない(店員の視線を察知して移動する)。
まさにプロの技だった。
***
【コース4:リラクゼーション】
場所:デパート『タロウ・伊勢丹』 5階家電売り場
「さて、最後は日頃の疲れを癒やす、極上のスパにご案内します」
リーザが胸を張って連れてきたのは、高級マッサージチェアの展示販売コーナーだった。
そこには『最新式・無重力マッサージ機(体験無料)』が並んでいる。
「さあ皆様、靴を脱いでどうぞ! 15分間の天国へ!」
リーザは慣れた手つきで一番高い機種に座り、リモコンの『全身・強』ボタンを押した。
ウィィィィン……モミモミ……
「あぁ~……うぅ~……そこぉ……骨盤が締まるぅ……」
S級アイドルの口から、オッサンのような呻き声が漏れる。
隆史もおずおずと隣の椅子に座ってみた。
「……おぉ。これは……極楽でござるな」
「でしょ? これがタダなの! タダで背中の凝りが取れるの!」
キャルルとルナも座り、「ふにゃあ」と脱力している。
冷房の効いたデパートで、最新鋭のマッサージを受ける四人。
確かに極楽だ。
しかし。
「……お客様。ご購入の検討でしょうか?」
笑顔だが目の笑っていない店員が、音もなく背後に立っていた。
「ひぃっ!?」
「あ、えっと、その……検討中ですぅ! すごくイイ商品だなって……!」
リーザがしどろもどろになりながら弁明する。
店員の視線が「またお前か」と語っていた。
「に、逃げるでござるッ!」
四人はマッサージの途中で椅子から飛び起き、デパートから逃走した。
***
夕暮れの公園。
ベンチに座り込んだ四人は、心地よい疲労感(と精神的なダメージ)に包まれていた。
「……はぁ。酷い目にあったでござる」
「でも、お金は一銭も使ってないでしょ?」
リーザはVサインをして、誇らしげに笑った。
「これが私の『0円ライフハック』! どう? 私に奢ってもらうのも悪くないでしょ?」
「……まあ、リーザ殿の逞しさはよく分かったでござるよ」
隆史は苦笑した。
確かに財布は痛まなかった。だが、社会的なHPが削られた気がする。
「お腹すいたわね……」
「そうですわね……ウィンナー一本でしたし」
結局、四人はタローソンに戻り、隆史がこっそり出した廃棄弁当を裏で食べることになった。
「やっぱり、店長さんの廃棄弁当が一番のフルコースだよぉ!」
「……調子のいいことを言うな。食べるでござる」
極貧アイドルのおもてなし。
それは、プライドと引き換えに得る、ささやかな日常の冒険だった。




