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EP 20

シェアハウスの朝食格差(貧富の差)

 シェアハウス『タロウ・ハイツ』201号室の朝は、残酷なほどの「経済格差」から始まる。

 時刻は午前7時。

 ちゃぶ台(リベラの差し入れ)を囲み、住人たちが朝食をとる時間だ。

「……ふぅ。今朝のラインナップはこれでござるか」

 店長・流賀隆史の目の前にあるのは、簡素な食事だ。

 『手巻きおにぎり・シーチキンマヨネーズ(消費期限:昨日の23時)』

 『おーいお茶(飲みかけ)』

 タローソンの廃棄品である。

 だが、隆史に不満はない。タダでカロリーが摂取できるだけで、この世界では勝ち組なのだから。

「いっただっきまーす! んぐ、んぐ……うんまっ!」

 隣で豪快な咀嚼音を立てているのは、月兎族のキャルルだ。

 彼女の目の前には、湯気を立てる豪華なプレートが鎮座している。

 『厚切りベーコンエッグ定食(パン・スープ付き)』

 『フレッシュサラダ』

 『ホットコーヒー』

「キャルル殿……それは?」

「ん? 『王宮食堂』の出前よ。リベラに貰ったお小遣い(護衛手当)があるからね! 身体が資本の武闘家は、朝からタンパク質を摂らないと!」

 キャルルは半熟の目玉焼きをパンに乗せ、とろりと溢れる黄身を頬張った。

 美味そうだ。悔しいが美味そうだ。

「おはようございますぅ~。私の朝食もできましたよぉ」

 キッチンから、ルナが謎の緑色の液体が入ったグラスを持って現れた。

 『特製グリーンスムージー(マナ高配合)』

「ベランダで魔法を使って育てた野菜と果物を、風魔法でミキサーにかけました! 美容と魔力回復に最高です!」

 ルナが一口飲むと、彼女の肌がピカーッと発光した。

 もはや食事というよりドーピングに近い。だが、材料費はゼロ(魔法生成)なので経済的だ。

 ここまではいい。

 問題は、テーブルの末席に座る、最後の一人だ。

「…………」

 元王女にしてアイドル、リーザ。

 彼女は正座をし、目の前の皿に置かれた「茶色い棒状の物体」を、神妙な面持ちで見つめていた。

 『食パンの耳(パン屋の裏口で貰ったもの)』

 『水道水』

 以上である。

「り、リーザ殿……?」

「……い、いただきます」

 リーザは震える手でパンの耳を手に取った。

 そして、それをコップの水道水にチョンチョンと浸した。

 ふやかすのだ。少しでも体積を増やし、かつ喉通りを良くするために。

「……はむっ」

 彼女はふやけたパンの耳を、小動物のように齧った。

「……おいひい。トースターで焼いたから、焦げ目の味がするよぉ……香ばしいよぉ……」

 目から一筋の涙がこぼれ落ちている。

 その横で、キャルルがベーコンをバリバリと食べ、隆史がシーチキンおにぎりを頬張っている。

 圧倒的格差。

 同じ屋根の下とは思えない、残酷なカースト制度がそこにはあった。

「(……見ていられないでござる!)」

 隆史の良心が悲鳴を上げた。

 彼は立ち上がり、冷蔵庫へ走った。

「リーザ殿! これを使うでござる!」

 彼が差し出したのは、使い切りの小袋に入った『イチゴジャム』と『マーガリン』。

 給食やホテルの朝食でよく見るアレだ。もちろん、店の床に落ちて売り物にならなくなった廃棄品である。

「えっ……い、いいの? こんな高級品……!」

「高級品ではない! ただの廃棄でござる! ……さあ、付けるがよい!」

 リーザの目が輝いた。

 彼女は震える手でジャムを封切り、パンの耳に塗りたくった。

 赤と黄色が、茶色い世界に彩りを与える。

「わぁ……! 宝石みたい……! 隆史さん、ありがとう!」

 リーザが満面の笑みでジャム付きパンの耳を頬張ろうとした、その時だ。

 カツーン、カツーン……。

 優雅なヒールの音が廊下に響き、リビングのドアが開かれた。

「あら、皆様。おはようございますわ」

 現れたのは、このアパートのオーナー兼スポンサー、リベラ・ゴルドだ。

 彼女は完璧にセットされた縦ロール髪を揺らし、後ろに控えたメイド(ゴルド商会の従業員)に合図を送った。

「セッティングなさい」

 メイドが手際よくテーブルクロスを広げ、銀食器を並べる。

 そして運ばれてきたのは――

 『ロイヤル・モーニングセット(金箔入りオムレツ)』

 『最高級茶葉のダージリン』

 『三段重ねのフルーツタワー』

 ちゃぶ台の一角が、突如として五つ星ホテルに変貌した。

「……あら? 皆様、ずいぶんと質素な朝食ですわね」

 リベラは金箔の乗ったオムレツをナイフで切り分けながら、悪気なく微笑んだ。

「特にリーザさん。……貴女、小鳥のエサみたいなものを食べてらっしゃいますわね?」

「こ、これはパンの耳ですぅ! ジャムも付いてる豪華版ですぅ!」

 リーザはパンの耳を背中に隠した。

 金箔オムレツの輝きの前では、廃棄ジャムの彩りなど色あせて見える。

 リベラはふぅ、と溜息をつき、食べかけのフルーツタワー(最上段のメロン)を指差した。

「私、朝は少食なのです。……これ、余りそうですわね」

「!!」

 リーザのウサギ耳ならぬ、人魚の聴覚が反応した。

 彼女はリベラに向かって、流れるような土下座を決めた。

「リベラ様! そのメロン! 廃棄するなら私が処分(消化)します! 喜んで!!」

「あらそう? なら差し上げますわ」

「やったあああ! メロンだあああ! 今年初めてのフルーツだあああ!!」

 リーザはパンの耳を投げ出し(隆史がキャッチした)、メロンに抱きついた。

 その姿は、プライドを捨てた野生動物そのものだった。

 隆史は、投げ出されたパンの耳を齧りながら、しみじみと思った。

「……このシェアハウス、是正すべき格差がありすぎるでござる」

 S級美少女たちの朝食風景。

 それは、この国の縮図そのものであった

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