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EP 19

庶民派英雄たちの宴(酒飲み回)

 タロウ・ハイツ201号室。

 普段は静かな(?)シェアハウスだが、今夜は異様な熱気に包まれていた。

 中央に置かれたこたつの上には、電子レンジで温められた『廃棄弁当』の山。

 そして、床には既に数本の『ストロング・ドライ(9%)』の空き缶が転がっている。

「ぷはぁーっ! 効くぅーっ! 仕事終わりの一本、これぞ人生ね!」

「わあ、目が回ります……世界がキラキラしてますぅ……」

「この『お酒』って、ポーションより元気がでますね!」

 S級美少女たちの宴が始まっていた。

 店長の流賀隆史は、部屋の隅でちびちびと缶を開けながら、このカオスな光景を眺めていた。

「(……これが、世界を救う英雄たちの姿でござるか?)」

 完全に、新橋のガード下にいるサラリーマンのそれである。

 最初に限界を迎えたのは、アルコール耐性の低いリーザだった。

 彼女は赤ら顔で、財布から取り出した一枚の銅貨(1円相当)を、目の高さに掲げて凝視している。

「あはっ、あははは! 見てください、隆史さん!」

 リーザがとろんとした目で、隆史に振り返った。

「銅貨が……銅貨が3枚に見えます! 増えました! やったぁ! これでパンの耳じゃなくて、パンの本体が買えますぅ!」

 彼女は虚空に手を伸ばし、幻覚のコインを掴もうとして空を切っている。

「……リーザ殿。それは飲みすぎで幻覚が見えてるでござるよ」

 隆史は冷静にツッコミを入れた。

 増えていない。ただ彼女の視界がブレているだけだ。

 哀れすぎるアイドルの姿に涙を禁じ得ない。

 その横で、キャルルが豪快に『ポークフランク(廃棄)』を齧り付いた。

「んぐ、んぐ……うんまっ! このパリッとした皮と、ジャンクな肉の味が酒に合うのよねぇ!」

 キャルルはソーセージを食べながら、缶酎ハイをグイッと煽った。

 そして、獲物を見つけた肉食獣のような目で、隆史を見た。

「うへへ……隆史ぃ~♡」

「ひっ、な、何でござるかキャルル殿……?」

 ガシッ!!

「あんたさぁ、今日ちょっと他の客(女性)と喋りすぎじゃない? 私がレジ横にいたのにさぁ」

 キャルルは隆史の背後に回り込み、プロレス技のようなヘッドロックをキメた。

 しかも、ただのヘッドロックではない。隆史の頭を、自身の豊かな胸元に押し付ける形の、いわゆる「ぱふぱふ」状態である。

「ぐごっ!? く、苦しいっ!?」

「ん~? どーしたのよぉ、もっと飲みなさいよぉ~」

 キャルルは絡み酒モードに入っていた。力の加減がバグっている。

 S級の腕力で締め上げられ、隆史の頸椎が悲鳴を上げた。

「(や、柔い……! 後頭部に感じる胸の感触……これは天国!)」

「(しかし、首が! 気道が! 締まってる! 死ぬぅぅぅ!!)」

 天国と地獄のミルフィーユ。

 隆史が白目を剥きかけた、その時だ。

「あらあら、キャルルちゃんだけズルいですわ」

 対面に座っていたルナが、ふらりと立ち上がった。

 彼女もまた、頬を朱に染め、瞳が据わっている。

「私もタカシさんに甘えたいです。……それに、柔らかさなら、負けませんわああ!!」

「えっ、ルナ殿!?」

 ムギュッ!!

 ルナも正面から隆史にダイブし、思いっきりハグをした。

 世界樹のエルフの慈愛に満ちた抱擁。

 それは柔らかく、温かく、そして――逃げ場を完全に封鎖した。

「えへへ、タカシさんあったか~い。世界樹の根っこみたいですぅ」

「こらルナ! 私が先よ! 離れなさい!」

「嫌ですぅ! キャルルちゃんこそ、タカシさんの首が折れちゃいますよ?」

「折れないわよ! 鍛えてるもん!」

 背後からはキャルルのヘッドロック。

 正面からはルナの窒息ハグ。

 横ではリーザが「お金ぇ……お金が増えるよぉ……」と虚空を掴んでいる。

 隆史は、二人の美少女の柔らかさに圧迫されながら、酸素不足の頭で絶叫した。

「皆グチャグチャでござるぅぅぅぅ!!」

 ***

 数時間後。

 深夜3時。

 嵐は去った。

 部屋には、いびきと寝息だけが響いている。

 キャルルは隆史の太ももを枕にして大の字で寝ており、

 ルナはコタツに半分潜ってむにゃむにゃと言い、

 リーザは空き缶を抱きしめて幸せそうに眠っている。

「……まったく。とんだ宴だったでござる」

 唯一、正気を保っていた(というか酔いが醒めた)隆史は、散らかった弁当の空き箱を片付けながら苦笑した。

 重い。

 足が痺れる。

 部屋は酒臭い。

 でも。

「……まあ、悪くない夜でござるな」

 隆史は、眠る彼女たちの頭をポンポンと軽く撫でた。

 孤独なコンビニバイトの帰り道、一人で缶ビールを飲んでいた前世とは違う。

 今は、騒がしくて、手がかかって、でも最高に可愛い仲間たちがいる。

 隆史は冷蔵庫から、自分用の『微糖缶コーヒー』を取り出し、カシュッと開けた。

 窓の外には、王宮の夜景が広がっている。

「さて、明日も早朝シフト……いや、もう今日でござるか」

 彼はコーヒーを啜り、小さな幸せを噛み締めた。

 ……その数時間後。

「ギャアアアアア!! 遅刻だああああ!!」

「頭痛い! ガンガンするぅ!」

「気持ち悪い……世界が回ってますぅ……」

「店長に殺される! 走れタカシ! おんぶして!」

 全員二日酔いで寝坊し、髪を振り乱して王宮へダッシュする羽目になるのだが――

 それもまた、チーム・サスガの日常である。

 小心者のコンビニ店長と、S級美少女たちのドタバタな毎日は、まだまだ続いていく。

 タローソンの自動ドアが開くたび、新しいトラブルと共に。

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