EP 18
廃棄弁当の行方
時刻は22時。
『タローソン王宮特別支店』のバックヤードに、電子音の『ピーッ』という無機質な音が響く。
店長の流賀隆史は、ハンディ端末を片手に、棚から下ろされた商品たちと対峙していた。
「……ふぅ。今日も大漁でござるな」
彼の目の前には、プラスチックのコンテナ山盛りの食品がある。
『大盛り・ミックスフライ弁当』
『手巻きおにぎり(明太子)』
『からあげクン(レッド)』
そして、レジ横で一日中回転し続けた末に干からびた『ポークフランク』。
これらは全て、消費期限切れ――すなわち「廃棄」となる運命の商品たちだ。
マニュアル通りなら、これらはゴミ袋に入れて処分しなければならない。
だが、隆史はゴミ袋ではなく、持参したマイバッグ(レジ袋)を広げた。
「捨てる? 笑止千万でござる」
彼は愛おしそうに、冷えた弁当を手に取った。
「これらはゴミではない。拙者の血肉であり、明日の活力であり、何より……タダ飯(無料の晩酌セット)でござる!!」
給料のほとんどをリベラへの借金返済(という名の家賃・食費・賠償金)に吸われている隆史にとって、この廃棄弁当こそが生命線。
彼は手際よく、弁当やおにぎりを袋に詰め込んでいく。
「よし。今日は『からあげクン』が2パックも残っている。これは豪遊できるでござるぞ……」
隆史の顔が、一日の中で一番輝いていた。
早くアパートに帰って、レンチンして、冷えたビール(発泡酒)で流し込みたい。
その一心で、彼は更衣室のドアを開けた。
「お疲れ様でしたー!」
意気揚々と裏口から出ようとした、その時だ。
ガシッ。
暗闇から伸びた手が、隆史の肩を強く掴んだ。
「ひぃっ!? で、出たな亡霊……!」
「誰が亡霊よ」
月明かりに照らされたのは、不機嫌そうに腕を組むウサギ耳の少女――キャルルだった。
そしてその背後には、目を爛々と輝かせたリーザと、ニコニコしているルナも控えている。
「キ、キャルル殿!? こんな時間に何用で……」
「遅いのよ、タカシ」
キャルルは鼻をひくつかせ、隆史が隠し持っていたマイバッグを指差した。
「いい匂いさせてんじゃない。……今日は『幕の内』と『からあげ』があるわね?」
「なっ、袋の上から中身を透視したでござるか!?」
「匂いで分かるわよ。……で、あんた、それを一人で食べるつもり?」
キャルルの赤い瞳が、肉食獣のそれに変わった。
隆史は脂汗をかきながら、袋を背中に隠した。
「い、いや、これは拙者のささやかな楽しみで……」
「水くさいこと言わないでよ!」
横からリーザが飛び出してきた。
「私たち、一つ屋根の下で暮らす家族(シェアハウス仲間)でしょ? 美味しいものは分かち合わないと!」
「リーザ殿、君は単に腹が減っているだけでござろう!」
「ルチアナ様から聞いたんです」
ルナがおっとりとした口調で爆弾を投下した。
「『日本のサラリーマンはね、仕事終わりにコンビニの廃棄をつまみに、安酒を飲むのが一番の幸せなのよ』って。……私たちも、その『日本の文化』を体験してみたいです!」
「(あのジャージ女神、余計な知識を……!)」
隆史は包囲された。
逃げ道はない。
キャルルがニカッと笑い、隆史の背中をバシンと叩いた。
「というわけで、今日はアパートで飲み会よ! ほら、酒持ってくる!」
「えっ、拙者の奢りでござるか!?」
「場所代はタダにしてあげるから、酒代くらい出しなさいよ。……あ、私は度数強めのやつね」
抵抗は無意味だった。
隆史は泣く泣く店内に戻り、酒売り場へと向かった。
「……はぁ。今夜は荒れるぜ」
彼がカゴに入れたのは、リベラ御用達の高級ワインではない。
アルコール度数9%。
飲むだけで理性を消し飛ばす、悪魔の液体。
『ストロング・ドライ(500ml缶)』だ。
「ええい、ままよ! どうせ飲むなら、とことん酔っ払ってやるでござる!」
隆史はヤケクソでカゴいっぱいにチューハイを詰め込んだ。
レジを通し(自腹)、廃棄弁当の入った袋と共に両手に抱える。
「待たせたな、野獣ども!」
「おっ、気が利くじゃないタカシ!」
「わーい! コンビニパーティーだー!」
夜道を歩く四人の影。
その足取りは、これから始まる地獄(宴会)への行進曲のようだった。
タロウ・ハイツ201号室。
そこが今夜、伝説の「庶民派英雄たちの宴」の舞台となる。




