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EP 17

コンビニ店長、最大の危機

 『タローソン王宮特別支店』のオープンから一ヶ月。

 店長の流賀隆史は、胃薬『ガスター10(転生品)』の箱を握りしめ、死んだ魚のような目でレジに立っていた。

「……おかしい。平和なコンビニ経営を夢見ていたはずでござる」

 当初の客層は、王宮の騎士や文官たちだった。

 しかし、ここ数日で客層が激変した。原因は、あの「喫煙所サミット」と「深夜の女子会」だ。

 街の裏社会では、まことしやかにこんな噂が流れていたのだ。

 『王宮のコンビニには、国王と魔王と勇者が密会するVIPルーム(喫煙所)がある』

 『深夜に行くと、女神と天使長が極上の神饌アイスを食べている』

 『あそこの店長は、魔界の貴公子すら顎で使う「裏の支配者」らしい』

 その結果――。

 ウィィィィン……

 重苦しいモーター音と共に、自動ドアが開いた。

 入ってきたのは、全身に古傷のある巨漢。背中には身の丈ほどの大剣。

 ギルドランクS級の冒険者、『首狩りのガンツ』だ。

「……おい、店長」

 地響きのような低音。

 ガンツはレジカウンターにドスンと肘をつき、隆史を睨みつけた。

「ひぃっ! い、いらっしゃいませでござるぅ……!」

「噂のブツをくれ。……あの魔王も愛飲しているという、『黒き覚醒の秘薬』だ」

「(……ブラックコーヒーのことでござるか?)」

 隆史は震える手で、ホットコーヒーのカップ(Sサイズ)を差し出した。

 ガンツはそれをひったくり、ガムシロップもミルクも入れずに一気に煽った。

「ぐぉぉ……! 苦ぇ! だが、全身に魔力が漲るようだ……! これが魔王の力か!」

 ただのカフェイン効果である。

 ガンツは満足げに金貨一枚を叩きつけ(釣りはいらない)、去っていった。

 ほっとしたのも束の間。

 シュバッ!

 音もなく、レジの前に黒装束の男が現れた。

 国際指名手配犯、『影刃のザイド』。

「……貴様が『伝説の店長』か」

 ザイドの指先で、ナイフがギラリと光る。

 隆史の心臓が早鐘を打つ。強盗だ。いや、暗殺か!?

 彼はとっさに、カウンターの下にあった『トング(愛用品)』を握りしめた。

「な、何の用でござるか……ここは神聖なコンビニ。乱暴は営業妨害でござるよ!」

 隆史は必死で虚勢を張った。

 だが、その震える手でトングをカチカチと鳴らした瞬間、ザイドの表情が凍りついた。

「(なっ……!? あの構え、隙がない……!)」

 ザイドの達人級の動体視力には、隆史の無駄な震えが「超高速のフェイント」に見えていた。

 さらに、トングの先端が放つ金属音は、神経を削る音波攻撃のように聞こえる。

「(俺のナイフより速く、あの奇妙な二股の武器トングで頸動脈を挟み切るつもりか……!)」

 ザイドの額に冷や汗が伝う。

 彼はゆっくりとナイフを収め、両手を上げた。

「……フッ。噂通りだ。俺の間合いに、こうも自然体ビビってるだけで立つとはな」

「へ?」

「負けを認めよう。……詫び賃代わりに、この店の最高級品をもらおうか」

 ザイドは財布から大量の宝石を取り出した。

 隆史は訳が分からず、とりあえず一番高い商品を指差した。

「じゃ、じゃあ……『お歳暮用・高級ハムセット』で……」

「ハム……! それもまた、保存食の王か。いいだろう」

 ザイドはハムの箱を抱え、敬意を表して一礼し、影のように消え去った。

 ***

 その後も、ひっきりなしに「ヤバい客」が来店した。

 隣国のスパイが「機密情報が入っている」と勘違いして『タロウ・スポーツ(競馬新聞)』を大量購入し、

 亡国のネクロマンサーが「生命の神秘だ」と言って『半熟ゆでたまご』に涙し、

 オークの将軍が「我らの同胞の無念を晴らす」と『ポークフランク』を共食いしていった。

 夕方。

 レジの中は、売上の金貨や宝石で溢れかえっていた。

 過去最高売上更新。

 だが、店長・隆史のHP(精神力)はゼロだった。

「……帰りたい。普通の客に来てほしいでござる……」

 隆史がカウンターに突っ伏していると、バックヤードからリベラが顔を出した。

「あら、凄いですわね店長さん! 今日の売上、昨日の300%増ですわよ!」

 彼女は電卓を叩きながら、満面の笑みを浮かべている。

「これなら、店舗改装費もすぐに回収できますわ。明日からは『魔界特産品コーナー』や『勇者グッズ』も置きましょう!」

「やめて! これ以上カオスを加速させないでござる!」

 隆史の悲鳴は、チャリンチャリンという硬貨の音にかき消された。

 その夜。

 疲れ果てた隆史は、廃棄登録をする気力もなく、消費期限切れの弁当やおにぎりをカゴに放り込んだ。

「……もう嫌だ。今日は飲んでやる。とことん飲んで、全てを忘れるでござる」

 彼が手に取ったのは、冷蔵庫の奥で冷えていた、アルコール度数9%の『ストロング・ドライ』。

 そして、大量の廃棄弁当。

 これが、後の「伝説の庶民派宴会」の始まりとなることを、彼はまだ知らない。

 孤独な晩酌になるはずが、なぜか嗅覚の鋭い美少女たちが集まってくるのが、彼の運命さだめなのだから。

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