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EP 15

戦慄の女子会 in タロウキング(前編)

 休日。それは労働者にとってのオアシスであり、聖域である。

 だが、コンビニ店長・流賀隆史にとって、休日は「別の業務(下僕)」の始まりでしかなかった。

「タカシ! 遅いわよ! 荷物持ちの分際で私を待たせる気!?」

「店長さん、こっちの袋もお願いしますぅ。安売りの小麦粉10キロですぅ」

「わあ、この看板光ってますね! 燃やしたらどんな色が……」

「ダメでござる! ルナ殿、その杖をしまうでござる!」

 王宮の城下町にあるファミリーレストラン**『タロウキング』**。

 そのボックス席に、異様な集団が陣取っていた。

 ウサギ耳の武闘家、キャルル。

 元人魚姫のアイドル、リーザ。

 世界樹のエルフ、ルナ。

 そして、ゴルド商会の令嬢兼敏腕弁護士、リベラ。

 この国のS級美少女たちが一堂に会する光景は壮観だが、その横に大量の買い物袋を抱えて死にかけている侍(隆史)がいることで、台無しになっていた。

「ふぅ……皆様、お買い物はお楽しみいただけまして?」

 リベラが優雅にメニューを広げた。

 彼女の指には、ゴルド商会発行のブラックカード(親の)が光っている。

「今日は私の奢りですわ。好きなだけ注文なさい」

「「「リベラ様ぁ~!!」」」

 野獣たちの目が輝いた。

「すいませーん! 『熟成リブロースステーキ』450g! ライスは大盛りで!」(キャルル)

「私は『山盛りポテト』と『コーンピザ』と『ドリア』! あとテイクアウトでパンケーキ!」(リーザ)

「私はこの『お子様ランチ』がいいです! 旗が立ってます!」(ルナ)

 次々と読み上げられる高カロリーな注文。

 隆史は遠慮がちに手を挙げた。

「あ、あの……拙者は『ドリンクバー』だけで……」

「あら、遠慮なさらず。貴方には『全部乗せ・メガトンハンバーグ(2000kcal)』を注文しておきましたわ」

「殺す気でござるか!?」

 ***

 料理が運ばれてくるまでの間、女子会は「ドリンクバー」という現代の魔法の泉を中心に回り始めた。

 メロンソーダとカルピスを混ぜて喜ぶルナ。

 スープバーのコーンスープを水筒(持参)に詰めようとして止められるリーザ。

 そして、ストローでアイスコーヒーをかき回しながら、キャルルが口火を切った。

「ねえ、暇だしさ。恋バナでもしない?」

 ブフォッ!!

 隆史がウーロン茶を吹き出した。

「こ、恋バナ……? このメンツで……?」

「なによタカシ、文句あるわけ? あんたも男なら興味あるでしょ、S級美少女の好みのタイプ」

 キャルルがニヤリと笑う。

 確かに興味はある。あるが、同時に地雷の予感しかしなかった。

「じゃあ私から! 私の理想のタイプはねー……」

 キャルルはウサギ耳をピコピコさせながら、夢見る少女の顔になった。

「やっぱり、私より足が速い人かな!」

「(……いない)」

 隆史は即座に心の中でツッコミを入れた。

 彼女は音速を超える脚力を持っている。彼女より速い男など、音速のハリネズミか、瞬間移動使いしかいない。

「それとね、実家が『最高級人参農家』の跡取りであること! これ絶対条件!」

「(……ハードルが具体的かつ高い)」

「毎朝、採れたての甘~い人参を私に貢いでくれて、駆けっこで私に勝ったら結婚してあげてもいいわ!」

 キャルルは頬を染めてキャッキャしているが、隆史の脳内シミュレーションでは「求婚者がスピード勝負で心臓麻痺を起こす未来」しか見えなかった。

「次は私! 私ねぇ……」

 リーザがフライドポテト(リベラのつまみ)を盗み食いしながら手を挙げた。

「私はやっぱり、『お金持ち』がいいなぁ……」

 切実だった。

 彼女の瞳には、愛ではなく「¥(エン)」マークが浮かんでいた。

「毎日お腹いっぱいご飯を食べさせてくれて、私の歌配信に毎回『赤スパチャ(金貨100枚)』を投げてくれる石油王!」

「(……パパ活でござるか?)」

「あと、私が借金を作っても、笑顔で肩代わりしてくれる人がいいな♡」

「(……ヒモの才能がありすぎる)」

 隆史は頭を抱えた。

 この国のアイドルは、夢を見る前に現実(金)を見ていた。

「じゃあ、ルナさんは?」

 リベラが話を振った。

 ルナはメロンソーダの炭酸の泡をじっと見つめながら、ポツリと言った。

「私……心が広い人が好きです」

「おっ、まともでござるな」

 隆史は少し安心した。エルフらしい、精神性を重視した答えだ。

「私が魔法の実験に失敗して、森を一つ燃やしちゃっても……『うっかり屋さんだなぁ』って笑ってくれる人」

「(……サイコパスだ)」

「あと、私が間違えて街を沈めちゃっても、『綺麗な湖ができたね』って褒めてくれる人!」

「(……共犯者だ! それは恋人ではなく共犯者でござる!)」

 隆史の胃がキリキリと痛み始めた。

 武力特化、守銭奴、災害メーカー。

 彼女たちがフリーである理由わけが、痛いほど理解できた。

「あらあら、皆様夢見がちですこと」

 リベラが優雅に紅茶を啜った。

「リベラ殿はどうなんでござるか? 完璧超人に見えるが」

「私? そうですわね……」

 リベラは眼鏡の奥の瞳を光らせ、チラリと隆史を見た。

「私の言うことを『御意』と言って聞き、どんな無理難題トラブルも土下座とスイーツで解決し、そして私好みの甘いお菓子を無限に作れる……そんな『便利な執事おもちゃ』みたいな方が理想ですわね♡」

「…………」

 隆史は無言で視線を逸らした。

 特定の個人を指している気がするが、気づかないフリをした。気づいたら戸籍をゴルド家に入れられそうな気がしたからだ。

「さ、料理が来ましたわよ!」

 店員が山盛りの料理を運んでくる。

 テーブルが肉と炭水化物の山脈と化した。

「いっただっきまーす!!」

 猛獣たちが食料に群がる。

 隆史は自分の前に置かれた「メガトンハンバーグ」の威圧感に涙目になりながら、フォークを手に取った。

「(……早く帰って、コンビニの品出しがしたいでござる……)」

 だが、女子会の悲劇はこれで終わりではない。

 この後、ルナがドリンクバーに向かったことで、ファミレスは『ウォーターワールド』へと変貌することになる。

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