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EP 11

看板娘(物理)の客寄せライブ

 『タローソン王宮特別支店』のバックヤード。

 そこは、世界を救う英雄たちが集う作戦会議室――ではなく、ただの休憩所である。

「はふっ、はふっ! んググ……ゴクン! ぷはぁーっ!」

 パイプ椅子に座り、猛烈な勢いで弁当をかきこんでいる少女がいた。

 元・海中国家の王女にして、現在は極貧アイドルのリーザである。

 彼女が食べているのは、消費期限が1時間前に切れたばかりの『大盛り・オークカツ弁当(タルタル増量)』だ。

「……リーザ殿。もう少しゆっくり食べるでござるよ。誰も取らないから」

 店長の流賀隆史は、在庫チェックの手を止めて呆れ声を上げた。

「だってぇ! 店長タカシさんがくれる廃棄弁当、世界で一番美味しいんだもん!」

「それは君が常に飢餓状態だからでござる。……まったく、アイドルなら体型維持もしなければならぬだろうに」

「大丈夫! 歌って踊ればカロリーゼロだよ!」

 リーザは米粒を頬につけたまま、ニカッと笑った。

 その笑顔は確かに国を傾けるほど可愛らしいが、背景にある貧乏神のオーラが凄まじい。

「それより店長さん! お店の売上、どうですか?」

「うむ……悪くはないが、爆発的とは言えぬな。王宮の人々は財布の紐が固い」

 ここは王宮の敷地内。

 騎士や文官たちは来店するが、彼らは基本的にケチ――もとい、堅実だ。ジュース一本、おにぎり一個で長時間粘る客が多い。

「恩人のタカシさんが困ってるなら、私が一肌脱ぐよ!」

 リーザはガタッと立ち上がり、バックヤードの隅にあった「みかん箱(段ボール)」を持ち上げた。

「私、店頭でライブする! 客寄せパンダならぬ、客寄せ人魚になるよ!」

「ほほう? 看板娘のライブでござるか」

 隆史は顎に手を当てた。

 アイドルの集客効果は馬鹿にできない。

 以前、路地裏で彼女が歌っていた時も、野良猫とおばちゃんたちは熱狂していた。

「よし、許可する! やってみるでござる!」

「任せて! タローソンを行列のできる伝説の店にしてみせるから!」

 ***

 タローソン店頭。

 自動ドアの横に、みかん箱が設置された。

 その上に立ったリーザは、魔法のマイク(雷霆のマイクスタンドモードではなく、100均のおもちゃマイク)を握りしめ、大きく息を吸い込んだ。

「王宮のみんなー! 仕事お疲れ様ーっ! アイドル・リーザのゲリラライブだよっ☆」

 彼女の透き通るような声が響く。

 通りかかった近衛騎士や、掃除中のメイドたちが足を止めた。

「お? なんだ?」

「可愛い子が歌ってるぞ?」

 観客が集まり始める。

 掴みはOKだ。

 リーザはウインクを飛ばし、アカペラで歌い出した。

 曲は、太郎(国王)直伝の、あの伝説の集金ソングだ。

 ♪テテテテン! テテテテン!(※口イントロ)

「五円!五円!御縁!御縁!ハイ!」

「五円!五円!御縁!御縁!ハイ!」

 リーザの手拍子に合わせて、騎士たちが戸惑いながらも手拍子を始める。

 彼女の「純真無垢な笑顔」と「現金な歌詞」のギャップが、聴衆の心を鷲掴みにする。

あかでもない しろでもない

 狙い打つのは 真鍮しんちゅうのゴールド!」

 (※注:この世界の五円玉的な硬貨はないが、歌詞の勢いでなんとなく伝わっている)

「絶対無敵のスパチャアイドル!

 五円が積もれば 山となる!

 御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ!」

 サビに入ると、観客のボルテージは最高潮に達した。

 仕事に疲れた騎士たちの目から光が消え、ただのドルオタへと変貌していく。

「リーザちゃぁぁぁん!!」

「尊い! 尊いぞおおお!」

「俺の給料を使ってくれえええ!!」

 チャリン! チャララララン!!

 投げ銭の嵐。

 リーザの足元に置かれた空き缶に、硬貨が次々と投げ込まれていく。

 ただし、騎士たちの給料日前という事情もあり、投げ込まれるのは小銭――「銅粒(1円相当)」ばかりだ。

「ありがとー! みんな大好きー!」

 ライブ終了。

 盛大な拍手と共に、リーザは深々とお辞儀をした。

 店内から見ていた隆史は、ニヤリと笑った。

「くくく……素晴らしい集客力。これだけの人数が興奮状態なら、喉も渇いているはず。きっと『からあげクン』と『コーラ』が飛ぶように売れるでござる!」

 さあ来い、客どもよ!

 レジの前で待ち構える隆史。

 しかし。

「いやぁ、いいもん見れたな」

「心が洗われたわ……」

「満足した。よし、午後も仕事頑張るか!」

 騎士たちは「精神的な満腹感」を得て、爽やかな笑顔でそれぞれの持ち場へと帰っていった。

 誰一人として、自動ドアをくぐることなく。

「……は?」

 隆史の笑顔が凍りついた。

 店内、客ゼロ。

 売上、ゼロ。

「ちょ、待つでござる! ドリンク! おにぎり! 買って行ってくだされぇぇぇ!!」

 隆史の悲痛な叫びは、自動ドアに阻まれて届かなかった。

 ***

 数分後。

 自動ドアがウィーンと開き、満面の笑みのリーザが入ってきた。

 その両手には、ズシリと重い麻袋が抱えられている。

「店長さん! 大成功だよ! 見て見て、こ~んなに集まったの!」

「……リーザ殿。外の客、全員帰ったでござるよ」

「えっ? そうなの? でも大丈夫! 私が売上に貢献するから!」

 リーザはドン! と麻袋をレジカウンターに置いた。

 中には、投げ銭で集まった大量の「銅粒どうつぶ」が入っている。

 この世界の通貨単位で、銅粒1つ=約1円。

 それが、砂山のように袋に詰まっているのだ。

「これぜーんぶ使って、『プレミアム・極上プリン』ひとつください!」

 リーザが指差したのは、レジ横にある1個300円(銅貨3枚)の高級プリン。

 彼女は麻袋を逆さにし、カウンターの上に中身をぶちまけた。

 ザララララララララ……ッ!!

 大量の、本当に大量の、砂利のような銅の粒が、レジカウンターを埋め尽くした。

 300粒どころではない。目分量で1000粒以上ある。

「はい! お釣りはいりません!」

「…………」

 隆史の顔から血の気が引いた。

 これ、数えるの?

 この砂みたいな小銭を?

 今から?

 その時、後ろに次の客(休憩中のサリー大臣)が並んだ。

「あら店長、混んでるの? 急いでるんだけど」

「ひぃっ! サ、サリー様!?」

 レジの上には、リーザが出した銅粒の山脈。

 それが邪魔で、バーコードリーダーすら動かせない。

 完全なるレジ封鎖。

 隆史の中で、何かが切れた。

「営業妨害でござるぅぅぅぅ!!」

「えっ? えっ?」

「リーザ殿! これは通貨というより、もはや金属資源でござる! こんな砂利、レジで処理できるわけがないだろうがァァ!!」

「で、でも、お金はお金だし……」

「銀行! いや両替商! とにかくどこかで『銀貨』か『銅貨』に替えてくるでござる! 今すぐにッ!!」

 隆史はカウンターをバンバン叩きながら絶叫した。

「両替して来おおおおおい!!」

 リーザの目から涙が溢れた。

「ぴえ~ん! せっかく稼いだのにぃぃぃ!」

 リーザは銅粒の山を必死に袋にかき集め、泣きながら店を飛び出していった。

 その後ろ姿を見送りながら、隆史はゲッソリとした顔で呟いた。

「……はぁ。アイドルのプロデュース料、高くついたでござる」

 タローソン王宮特別支店。

 本日の売上、プリン一個分(未遂)。

 店長の胃薬の在庫、マイナス1。

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