エピローグ 参考になりましたら
なんというか、すごい話だった。マヌケを通り越して凄絶。そう言わざるを得ない。
『貴女が話してた、ローカル線でずっと座り続けて小説を書く人もさ。外から見て笑うのは簡単よ? でも結局、世の中を動かすような人が持っているのは、そういう情熱というか熱情じゃないかしら。歴史上の偉人と対面したような、そんな衝撃をうけたわね』
「本当に格闘技の選手なの、その人? ただの変わりものではなくて?」
『私も気になって、あとでネットで調べたけど、それらしい選手は見つからなくて。だから本当に、ただの変わった人だった可能性はあるわ。でも未来の日本チャンピオンって考える方が、夢はあるじゃない』
そう彼女は笑って、しばらく話したあと私たちは通話を終えた。一人、私は考える。
私の人生で、ステーキ屋に入って、なにも食べずに帰るような日はあるだろうか。ないだろうなぁと思う。私は減量をしてまで誰かを殴ろうと思わないし、やはり生き方や考え方が、男性と女性では違うのかなぁと思わされた。こういう考えは男女差別になるのかもだけど。
深く考えるのをやめて、バッカスを口に含んだ。十月は洋酒入りのチョコレートであるバッカスが販売開始される時期で、私はこれが大好きだ。私にはピンと来ない男性の話だったけど、聞く人によっては、なにかの参考になるかもしれない。今度、誰かに話してみよう。
お菓子はステーキと違って身にならないけど、私たちの生活に欠かせない存在である。今月末のハロウィンも、きっと盛り上がることだろう。これからも、毒にも薬にもならない話を長々と、電話で彼女と楽しみたいと。酔った頭で、私は思った。




