表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

辿(たど)り着けない男性

 (よる)(なが)電話(でんわ)には、お(さけ)()べものがセットで必要(ひつよう)である。私は()みながら、複数(ふくすう)のお菓子(かし)をちびちびと()べていく。今月(こんげつ)(まつ)はハロウィンがあるから、というわけでもないけど、私たちの話題(わだい)はお菓子(かし)(うつ)っていった。


「だからね。チップスターは、(ほか)のポテトチップスとは(ちが)うの。あれは(おう)さまなのよ、ポテト(かい)MVP(エムブイピー)()えるわ」


『そんな()位置(いち)? (つつ)(はい)ってて、値段(ねだん)(ほか)よりも(たか)めで、それなのに(りょう)(すく)なめの製品(せいひん)じゃない。あれ45グラムしかないでしょうに』


「そこがいいのよ! (つつ)(はい)ってて、(さら)銀紙(ぎんがみ)(つつ)まれてるからいいの。(ほか)のチップスは(ふくろ)(はい)ってるだけだから、一度(いちど)あけちゃったら保存(ほぞん)がしにくいわ。チップスターは(すこ)しずつ()べられるから、(ほか)のお菓子(かし)一緒(いっしょ)(たの)しめるのよ。お(さけ)にも()うしね」


 私はうすしお(あじ)のチップスターが(この)みだ。ポテトチップスはプリングルスも(つつ)(じょう)容器(ようき)だが、あれは何故(なぜ)だか、(そこ)がスチール(せい)である。(てつ)部分(ぶぶん)分別(ぶんべつ)して()てなくてはいけないので、どうにも面倒(めんどう)くさい。チップスターは今後(こんご)も、私の(なか)ではスターであり(つづ)けることだろう。


「『きのこの(やま)』と『たけのこの(さと)』が、生誕(せいたん)から五十(ごじゅっ)周年(しゅうねん)らしいね。公式(こうしき)サイトで()たけど、日本(にほん)ではたけのこの(さと)人気(にんき)で、世界(せかい)(てき)にはきのこの(やま)人気(にんき)なんだって。たけのこって、西(せい)(よう)ではあまり()べられてない()がするんだけど、それが原因(げんいん)かしら。


 まあ私も、どちらかと()えばたけのこ()だし、本物(ほんもの)のたけのこも大好(だいす)きだけど。単純(たんじゅん)に、たけのこの(さと)(ほう)が、チョコ部分(ぶぶん)(おお)きい()がするのよ。そこは、やっぱり重要(じゅうよう)じゃないかしら。きのこの(やま)もたけのこの(さと)も『いちご&ショコラ(あじ)』が()てるけど、あれは(ひと)つのチョコが半分(はんぶん)ずつ、(べつ)(あじ)になってるのよね。


 (こと)なる(ふた)つの(あじ)(ひと)つのチョコで(たの)しむには、やっぱりある程度(ていど)(おお)きさが必要(ひつよう)だと(おも)うの。きのこの(やま)は、その(てん)でも不利(ふり)じゃないかな。クラッカー部分(ぶぶん)だけ(おお)きくても、そこで味付(あじつ)けが()わるわけじゃないしねぇ。そんな理由(りゆう)で私はたけのこの(さと)()なんだけど貴女(あなた)はどう?」


『どうでもいいわよ。それより、ちょっと()になるものを()(はなし)があるんだけど』


 彼女(かのじょ)に私の(はなし)()()られる。ひょっとしたら彼女(かのじょ)は、きのこの(やま)()だったのかもしれない。


「なになに、(こわ)(はなし)? というか面白(おもしろ)(ひと)なら私も()たよ。電車(でんしゃ)(なか)()男性(だんせい)なんだけどさ」


『ふーん? じゃあ、そっちを(さき)()きましょうか』


 彼女(かのじょ)が私の(はなし)()きに(まわ)った。さっきから私ばかり(しゃべ)ってる()がするけど、ずいぶん彼女(かのじょ)辛抱(しんぼう)(づよ)いなぁと(おも)った。立場(たちば)(ぎゃく)なら、とっくに私は電話(でんわ)()ってるのではないか。ありがたい(はな)相手(あいて)である。


「いや、そんな(たい)した(はなし)じゃないんだけどね。ほら私の近所(きんじょ)って、電車(でんしゃ)のローカル(せん)(はし)ってるじゃない。ひたすら二駅(ふたえき)(かん)(おう)(ふく)するだけの路線(ろせん)で、片道(かたみち)五分(ごふん)くらいで到着(とうちゃく)するんだけど。その()(せん)から普通(ふつう)は、私も(ふく)めて(べつ)()(せん)()()えて、(まち)(あそ)びに()ったり。(もど)ってくるときは(ぎゃく)に、ローカル(せん)()()えて、私の場合(ばあい)自宅(じたく)(かえ)ったりするのよ」


『うん、()ってるわよ。そのローカル(せん)電車(でんしゃ)で、面白(おもしろ)男性(だんせい)()たってこと?』


「まあね。といっても、その(ひと)派手(はで)なことなんか、してないんだけど。ただ(すわ)ってるだけで」


 この説明(せつめい)だけでは、なにが『面白(おもしろ)い』のか、さっぱりわからないだろう。電話(でんわ)()こうで、彼女(かのじょ)(かんが)()んでいた。


『……まだ、なにか(かく)してるんでしょ。その(ひと)(すわ)ってなにをしているのよ』


(すわ)ってできることなんて、そんなにないでしょ。(こた)えを()うと、ノートパソコンを(ひざ)(うえ)()せてね。ひたすら文章(ぶんしょう)をタイピングしてるのよ。それも、何時間(なんじかん)もね」


『……ローカル(せん)に、何時間(なんじかん)()(つづ)けてるってこと? なんで貴女(あなた)、それがわかるの? ずっと()てたわけじゃないんでしょ』


「わかるわよ。()たのは日曜日(にちようび)なんだけどさ。私は午前中(ごぜんちゅう)自宅(じたく)から(まち)()って、その途中(とちゅう)でローカル(せん)()って、車内(しゃない)でノートパソコン男性(だんせい)さんを()たの。それで電車(でんしゃ)()まって私や(ほか)(ひと)がホームへ()りても、ノートパソコンさんは()りないのよ。電車(でんしゃ)のドアは()まって、ローカル(せん)(もと)(えき)(もど)っていったわ。


 もう、わかるでしょ? 午後(ごご)になって、私は(まち)から電車(でんしゃ)(いえ)(かえ)って。それでローカル(せん)()ったら、いたのよ。ミスター・ノートパソコンが、午前中(ごぜんちゅう)(すわ)ってたときと(おな)(せき)にね」


 ちょっとパソコンの画面(がめん)をのぞき()んだら、やっぱり午前中(ごぜんちゅう)同様(どうよう)に、(かれ)文章(ぶんしょう)をタイピングし(つづ)けていた。内容(ないよう)まではわからないけど、あれは小説(しょうせつ)だったんだろうと私は(おも)う。


『ローカル(せん)で、ひたすら二駅(ふたえき)(かん)(おう)(ふく)(つづ)けてる男性(だんせい)……。ホラー小説(しょうせつ)になりそうね』


 それはそう、(たし)かにそう。いつまでも目的(もくてき)()辿(たど)()けない地縛(じばく)(れい)(はなし)が、西尾(にしお)維新(いしん)小説(しょうせつ)にあったなぁ。『(ばけ)物語(ものがたり)』だっけ。きっと(すぐ)れた作家(さっか)は、日常(にちじょう)()かけた光景(こうけい)をジャンル小説(しょうせつ)仕上(しあ)げてしまうのだろう。私はこうやって電話(でんわ)でそのまま彼女(かのじょ)(はな)してしまうから凡人(ぼんじん)なのだ。


「よく喫茶店(きっさてん)とかで(きゃく)が、何時間(なんじかん)居座(いすわ)ってノートパソコンの作業(さぎょう)をしてたりするじゃない。試験(しけん)勉強(べんきょう)や、()()りに()われたマンガ()なんだろうけど、そういうのと(くら)べたらマシな(ひと)じゃないかな。ローカル(せん)一人(ひとり)(すわ)(つづ)ける(ひと)がいても、そこまで迷惑(めいわく)がられないし」


 図書館(としょかん)()けば()いんじゃないかと(おも)わなくもないけど、その(あた)りは事情(じじょう)があるのかもだ。図書館(としょかん)よりも電車(でんしゃ)(なか)(ほう)が、適度(てきど)(ひと)のざわめきがあって刺激(しげき)になるのかもしれない。(まど)(そと)()れば景色(けしき)(うご)くし。


食事(しょくじ)はどうしてるのかしら。ずっと()まず()わずで(すわ)りっぱなし?』


()らないけど、ホームに()りれば()みものは自動(じどう)販売機(はんばいき)があるしね。たぶん二駅(ふたえき)のどっちかが、(かれ)自宅(じたく)(ちか)くで。お(ひる)()ぎには(えき)から()て、適当(てきとう)外食(がいしょく)してるんでしょ。それでまたローカル(せん)()って、何時間(なんじかん)かパソコンで執筆(しっぴつ)してから(いえ)(かえ)るんじゃないの。それなら電車(でんしゃ)(だい)はローカル(せん)(おう)(ふく)(だい)だけで()むわ」


 (かれ)努力(どりょく)(むく)われる()()るのだろうか。もう()ているだけで存在(そんざい)面白(おもしろ)いから、今後(こんご)(がん)()っていただきたい。ちなみにノートパソコン()()たのは一度(いちど)だけで、毎日(まいにち)いたら鉄道(てつどう)会社(がいしゃ)(ひと)から(しか)られそうだから、ほどほどにすることを私はお(すす)めする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ