1話
その日、明はいつものように感情を押し殺しながら、通学路を歩いていた。
しかし、朝両親の喧嘩に巻き込まれ、
感情が昂っていた。
ふと、空を見上げると、そこにはありえない光景が広がっていた。青空が、まるで絵の具をこぼしたかのように黒く滲んでいる。その中心には、黒い渦がゆっくりと渦を巻いていた。
「……最悪だ」
明がそう呟いた瞬間、彼の目の前に一人の少女が現れた。夕焼けを切り取ったような赤毛に、鋭い光を宿した瞳。彼女は明を真っ直ぐ見据え、冷たい声で言った。
「見つけた。世界の歪みを創り出した能力者……龍堂 明」
少女の右手から、透き通った青い光が放たれる。その光は、まるで生き物のように形を変え、鋭い刃となって明に襲いかかった。明は反射的に後ろに飛び退き、どうにか攻撃をかわす。
「待ってくれ!俺は何も……」
「聞かない。貴様のように世界を壊すやつは癌とかわらない」
少女は容赦なく追撃を繰り出す。刃の形をした光が、いくつも明を囲む。絶体絶命の状況で、明は怒りの感情がこみ上げてくるのを感じた。
「勝手に決めつけるな!」
その叫び声と共に、明を中心に世界が大きく揺れた。アスファルトがひび割れ、地面が波打ち、遠くのビルがぐにゃりと曲がる。少女の放った光の刃も、その歪みに飲み込まれて霧散した。
少女は目を丸くし、明の能力のスケールに驚愕する。そして、彼女は気づいた。
「……どうやら。あなたの能力は、故意に使ってるわけじゃないのね」
少女は攻撃を止め、一歩前に進み出た。
「私の名前は、久寿川 りん。ワールドクリアランサーという組織の一員よ。私たちは、世界を歪める能力者を排除し、歪んだ現実を元に戻すことを使命としている」
りんはそう言って、一つの名刺を明に差し出した。そこには、彼女の所属組織の名と、連絡先が記されている。
「あなたのその力は、世界の均衡を壊す危険なもの。でも、使い方次第では、この世界を守る力にもなりえる。あなた私とこない?」
「……どういうことだよ」
「私たちワールドクリアランサーは、あなたの歪みを起こす力の制御方法やを教えることができる。そのかわり、世界に干渉できる能力者は組織に二人しかいないので、力を貸してほしい」
明は、差し出された名刺と、りんの真剣な表情を交互に見つめた。彼の感情を殺してきたこれまでの人生。しかし、この少女は、歪んだ世界を元に戻すと言った。自分の能力を、制御できるかもしれないと言った。
これは、世界を壊す力か、それとも救う力か。
明は、その名刺を手に取った。
彼の、歪んだ世界を正すための物語が、今、始まった。