その97 邪神姫の恋敵(ライバル)調査と、勇者の転売ヤー計画
◆邪神軍・虚無の牢獄
「ふふふ……趣向を変えるわ。
貴様が最も憎むべき『恋敵』を、この手で消し去ってやる」
邪神姫アザトース=アポフィス=ド・ティラミス=ラグナロク=ペルセポネ=あんみつ九世は、けんたろうに慈悲深い笑みを向けた。
「貴様はあの魔王に無理やり捕らわれている。
ならば、その元凶であるあの女を消せば、貴様は悲しみ、そして同時に解放されるはず」
「さあ、どうだ? 私が、あの女を殺してやろうか?」
それは、けんたろうを試す、悪魔の提案。
恋人を殺されると聞いて、彼がどんな反応を示すのか――。
けんたろうは、青ざめた顔で、震えながら首を横に振った。
「そ、それは……ダメです……」
「ほう、なぜだ? あれを憎んでいるのだろう?」
邪神姫が面白そうに問う。
「……確かに、あの人のやることは怖いし、無茶苦茶だし、名前も長いし……」
「でも……」
けんたろうの脳裏に、時折見せる魔王の寂しそうな顔や、無邪気な笑顔が浮かぶ。
「……でも、死んでほしいとは……思わない……です」
その答えを聞いた瞬間、邪神姫の顔からスッと血の気が引いた。
(な……なんなの、こいつ……!?)
先日、けんたろうの魂の深淵で見た、あの果てしない地平線デートの恐怖。
あの狂気的な愛を受けながら、それでもなお、相手を想う気持ちが残っているというのか。
(この男の器……私の想像を遥かに超えている……!)
(いや、それ以上に、あの魔王の愛とは、一体……どれほどの重さなのだ……!?)
全能の邪神姫は、敵である魔王とその婿の、理解不能な「絆」の形に、生まれて初めて畏怖の念を抱いた。
◆邪神軍本拠地:神殿最奥・玉座の間
「デュランダァァァル!!!」
パズスの絶叫が玉座の間に響き渡る。
しかし、ニャルラトホテプは、感情的になるパズスの肩を抑えた。
「冷静になれ、パズス。
アーリマンがダメージを負っている今、戦力を欠くのは得策ではない」
「しかし!」
「今は勝つことが最優先だ。
私怨はその後で晴らせ」
その言葉に、パズスは憎悪の炎を燃やしながらも、なんとか理性を保つ。
一方、デュランダルは内心で冷や汗をかいていた。
(まずい……ラジオネームがバレたか……。
今後の投稿活動に支障が……)
「では、あの炎の魔人は私が相手をしましょう」
エキドナが、ファイアイスの前に進み出る。
「ヒャッハー! 女だろうと関係ねぇぜ! 燃えカスにしてやる!」
ファイアイスの極大の炎と、エキドナの絶対零度の氷が激突する。
凄まじい水蒸気が、再び戦場を覆い隠した。
「ふふふ……いいスチームだわ。肌の潤いが違う」
「なめてんのか!」
ファイアイスの追撃を、エキドナは氷の壁で防ぐ。
「今度は冷気……!
熱くなった肌を冷やして、毛穴が引き締まるじゃない!
最高だわ!」
戦闘のすべてを美容に利用するエキドナに、ファイアイスは完全にペースを乱されていた。
(((ゲスセコォォォ〜〜〜!!!)))
◆勇者一行:香辛料の街バーラト
強盗団を壊滅させた一行は、街の人々から英雄として迎えられた。
唐辛子屋の店主は、涙ながらに感謝を述べた。
「勇者様! 本当にありがとうございます!
お礼と言ってはなんですが、店の唐辛子を好きなだけ持っていってください!」
一行は、山のような唐辛子を手に入れた。
「よし! これでイスバニャに戻って、王様から船をもらえるぞ!」
カティアが意気揚々と叫ぶ。
しかし、リリィだけは、唐辛子の山をいやらしい目つきで見つめていた。
「待ちなさい。
この唐辛子、本当に全部、王様に渡しちゃうの?」
「え? そうじゃないの?」
エルが不思議そうに問う。
「もったいない!
王様には、このうちの十分の一もあれば十分よ」
「残りの十分の九は、船をもらった後、私たちがイスバニャの市場で売りさばくの!」
「需要があるのに供給がない市場……これは独占販売よ!」
リリィはゲスな笑みを浮かべ、高らかに宣言した。
「王様を助けたお礼と、これから私たちが始める唐辛子ビジネスの元手、両方手に入れる!」
「覚えておきなさい! 人助けのお礼は、投資の元手! これぞ勇者の資産運用よ!」
そのあまりにもゲスでセコい計画に、仲間たちの魂が叫んだ。
「「「人助けの心を金に換えるなーーーっ!!!」」」




