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その92 無限地獄と福利厚生

◆邪神軍・虚無の牢獄


「ふふふ……肉体的苦痛など、もう飽きたでしょう?

 今度は貴様の精神を根元から腐らせてあげる」


 邪神姫は妖しくほほえむと、けんたろうを豪華な椅子にしばりつけた。

 目の前には巨大なスクリーンが広がり、最高の音響設備が設置されている。


「人間は、同じ刺激を与え続けられると精神が崩壊するというわ。

 そこで、貴様が最も好むという『アニメ』とやらを、二十四時間、強制的に見せ続けてやる!

 逃げ場のないこの空間で、食事も睡眠も許さず、ただひたすら同じ快楽を浴び続けるがいい!

 やがて貴様の脳は焼き切れ、幸福の中で廃人となるのよ!」


 スクリーンに、けんたろうが「人生のベストアニメ」と公言してはばからない名作ロボットアニメの第一話が流れ始める。


(ま、まじか……!

 強制的に全話いっき見させてくれるってこと!?

 しかもこの環境、音響も画質も最高じゃん……!)


 けんたろうは歓喜に打ち震えた。


「ど、どうだ苦しいか!

 早くも精神に異常をきたしたようだな!」


 邪神姫が勝ち誇ったように言う。


(ここで苦しいって言わないと止められちゃうかも…!)


「く、苦しいです…!

 もうやめてください…特にこの前期オープニングは神すぎて魂が震えます…!」


「そうか、効いているようね!

 もっと苦しむがいいわ!」


 けんたろうにとって、そこは地獄に見せかけた天国だった。


◆邪神軍本拠地:神殿最奥・玉座の間


 ついに戦いの火ぶたが切られた。


「まずは俺だ」


 魔王軍総司令官ハドうーが一歩前に出ると、それに応じるように絶対悪の化身アーリマンが進み出る。


「くくく……いいぜ、木偶の坊!

 小手調べにはちょうどいい!」


 アーリマンの拳が空を裂き、空間ごとたたきつぶすような一撃がハドうーに迫る。


 ハドうーはそれを、無造作に突き出した片腕で受け止めた。


 ゴッ!と星が砕けるような衝撃音が響き渡り、両者の間からすさまじい衝撃波がほとばしる。


 続く攻防は、まさに神話の巨人の戦い。


 だが、純粋な力において、ハドうーは常にアーリマンを上回っていた。


「な……ぜだ……!?」


「貴様の拳は軽い」


 ハドうーの拳がアーリマンのガードを打ち破り、その腹にめり込む。

 指先からは黒曜石のような爪が伸び、装甲を紙のように切り裂いた。


「ぐはっ……!?」


 アーリマンはボールのように吹き飛ばされ、玉座の間の壁にたたきつけられた。


「くそっ……こいつ、強い……!」


 幹部の一人が一撃で沈む光景に、邪神軍の面々が反応する。


「あらあら、油断しすぎよ。

 だから間食はやめなさいと言ったのに」


 エキドナがため息をつく。


「相手は魔王軍の総司令官。

 この程度は想定内だ」


 ニャルラトホテプが冷静に分析する。


 その中でパズスだけは、戦いではなく、敵陣のデュランダルを憎しみの目でにらみつけていた。


(見ていろよ、俺の宿敵め……!

 次にその得意げな顔をゆがませるのは、この俺だ!)


 そして、デュランダル――その通り名は「冥界の語り部ネクロノーム」。

 闇の知識をあやつり、死者の声を聞く者。

 彼の沈黙は、すべてを語る。



◆勇者一行:東方の街道


 唐辛子を求め、一行は東へ向かっていた。

 街道に出現する魔物は、以前より格段に手強くなっている。

 だが、今の勇者パーティーは違った。


「はぁっ!」


 剣士カティアがミスリル製の長剣でオークキングを一閃すると、分厚い鎧ごと両断する。


「武器が強い……いや、違う!

 私自身が、レベルアップしてる!」


「ふん!

 人使いの荒いゲス勇者に付き合ってれば、いやでも強くなるわよ!」


 ツンデレ魔法使いのエルが毒づきながらも、詠唱した炎の槍がグリフォンを正確に貫く。


「はい!

 皆さん、おけがはありませんか!」


 白魔導士ミレルカの放つ聖なる光が、アンデッドモンスターの一群を浄化していく。


「今の私なら、どんな強力な魔物からも皆さんを守ってみせます!」


ミレルカは胸に手を当て、続けた——


「リリィ様についていけば……本当に魔王を倒せるかもしれません!」


 その夜、たき火を囲みながら、リリィは神妙な顔つきで語り始めた。


「今までの私は、金をケチってギリギリの戦いを強いてきた。

 おかげで皆は強くなったけど、魔王軍のボス級と戦うには、疲弊した状態ではやはりきつい」


 エルがそっぽを向きながら内心で思う。


(べ、別にあんたのために強くなったわけじゃないんだからね!

 …でも、それでも戦えてるあんたが一番規格外よ)


「だから、これからは方針を変える。

 装備も宿もケチらない。

 常に最高の状態を保ち、いつでもボス級が来てもいいようにしておく」


 仲間たちの間に、感動と信頼の良い空気が流れる。


「万全な状態なら、あの最初に戦った魔王軍の総司令官ってやつは、倒せてた……!」


 リリィが悔しそうに拳を握る。


 カティアは胸が熱くなった。


(リリィ……お前、やっぱりすごいよ!)


 リリィは仲間たちの顔を見回し、力強く宣言した。


「だから、魔王を倒すまで、みんなの給料はなしね!」


「「「結局そこかーーー!!!」」」


 三人の絶叫が、夜の荒野にむなしく響き渡った。


 ゲスセコ~!

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