その8 泣いても、罠は笑ってる
■ 会議の終わりと、悪魔の提案
会議がようやく終わり、
けんたろうはフラフラとした足取りで、魔王城の回廊を歩いていた。
手には、なぜか冷えたコーラ(朝からずっと持ってる)。
「……長かった……あれ、何時間やってたんだろ……」
だが、その歩みを止めたのは――
「けんたろう様。何かお考えが?」
声をかけてきたのは、魔王の側近・無名の黒騎士ヴェリタス。黒ずくめの甲冑に、冷静沈着な気配。無表情。
けんたろうは静かに答えた。
「勇者が魔王城に攻め込んでくる前に、万全の罠を張るべきだと思います。」
ヴェリタスの眉がぴくりと動いた。
■ 地獄の罠プラン、発動
「たとえば、回転床。踏むと方向が90度変わって、ずっと正面に進めないやつです。あと、落とし穴。もちろん下は針だらけで」
「……」
「毒の霧。一定時間ごとに充満する部屋。あと、空気中に幻覚作用のある香を撒いて、仲間同士で戦わせたりとか」
「……」
「バリア。一定の属性攻撃を跳ね返すんですが、その属性が1秒ごとに変化します。しかもノーヒント」
「…………」
「あと、道中に宝箱を置いておいて、それが明らかにレアっぽくて、でも取ろうとするとめっちゃ遠回りになる構造。地図で見ると一本道っぽいけど、実は罠の迷宮」
「……お、おやめください……!!」
ついに冷静だったヴェリタスが、震えながら後退した。
「そ、それは……!あまりに悪魔的……!あまりに……!」
「人間の考えることじゃない……!」
「けんたろう様……あなたは、“罠を生む者”ですか……!!」
■ 一方そのころ、人間界・アソアハソ城下町
勇者・リリィは、まだ仲間を集めていた。
噂を聞きつけ、一人の少女が近づいてくる。
年のころは14~15歳。
純白のローブ、膝丈のスカート、儚げな銀髪。
彼女の名は――ミレルカ。
■ ミレルカの願い
「わ、私……貧しい村の出身で……。母が病気で、薬を買わなきゃいけなくて……。
どうか……どうか勇者様……私を、旅に連れて行ってください……!」
涙ぐみながら、両手をぎゅっと胸の前で合わせる。
周囲の酒場の人々も、少しざわつく。
「おお、あの子……白魔導士の修行生じゃないか?」
「純粋な子だよ……」
「きっと、癒しと希望の光になる……」
しかし――
リリィの表情は、ピクリとも動かなかった。
■ 勇者の鬼畜面接、再び
「で?お金稼ぎたいってこと?」
ミレルカ「はい……!」
「何かあったとき、責任取れないけどいい?」
「えっ……?」
「毒沼に落ちても助けない。
強敵が来ても、前に出させる。
仲間が減ったら、“とりあえず回復”役にする。」
「そ、そんな……!」
「あと、**夜は見張りね。交代しないよ。**だって寝たいもん、こっち」
ミレルカ「…………!」
勇者、さらに追い打ち。
「そういうの、全部OKってサインしたうえで、ついて来れる?
責任ゼロ、命も保証ゼロ、感謝もたぶんされない。
それでも来たい?」
■ 涙の加入
ミレルカは、ぶるぶる震えながら――
「はい……」と答えた。
涙が、頬を伝う。
周囲の人々、沈黙。
「……勇者……」
「……いや、あの子泣いてるよ……」
「泣かせる面接って何?怖い……」
「この勇者、なんで味方を怖がらせてんの?」
■ ミレルカ、仲間入り(泣き顔)
リリィは、そっと肩に手を置いて告げた。
「泣いても、旅は止まらないよ」
「だから泣くなら……罠の中で泣いて。」
\\\ どよめきッッッ!!! ///
「……あれ?この人がラスボスじゃないの?」
「どっちが悪魔だよ、ホントに……」