その78 抹殺宣告と防寒のロマンと砂漠の夜の商売
箱根旅行から数日、魔界王宮《メフィス・ヘレニア・ダークネス・クレプスキュール宮殿》の玉座の間にて。
けんたろうは、ずっと気になっていたことを魔王様(ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世)に尋ねてみた。
「あの、素朴な疑問なんですけど、邪神姫っていったい何者なんですか?
魔王様と旧知の仲のようでしたけど…」
その問いに、魔王様の表情から笑みが消え、宇宙の深淵を思わせる冷たい光が瞳に宿った。
「あれは、余と星を二分する力を持つ、宇宙で最も厄介な女。
目的のためなら銀河の一つや二つ、躊躇なく消し去る災厄そのものよ。
そして今も、この魔界の玉座を虎視眈々と狙っておる」
「そ、そんなに危険な相手なんですか……」
空気が凍りつくほどの殺気に、けんたろうは息をのむ。
魔王は静かに、しかし絶対零度の声で宣告した。
「次に会う時が、奴の最期となる。この余が直々に、その存在を宇宙から抹消してやる」
だが、その直後。魔王様はけんたろうを背後からぎゅっと抱きしめ、その肩に顔をうずめた。
「……そして何より、余のけんたろうに色目を使った。それだけで、万死に値する!!」
「え、そっちが本音!?」
壮絶な殺意の根源がただの嫉妬だったことに、けんたろうは眩暈を覚える。
魔王様はさらに力を込め、真剣な声で続けた。
「奴は目的のためなら手段を選ばん。お主のような『至宝』を人質に取るなど、奴ならやりかねん。
……よいか、けんたろう。決して余から離れるでないぞ。絶対に、だ」
「(なんか、ものすごく嫌なフラグが立った気がする……)」
けんたろうの不安をよそに、魔王様は
「今夜は余の腕の中で眠るがよい。一睡もさせぬがな!」
と楽しそうに笑うのだった。
◆魔王軍会議:くだらないことで今日も大モメ
その頃、第一作戦会議室では、魔王軍幹部が真剣な面持ちで議論を交わしていた。 議題は、『冬季野営訓練における最適な暖の取り方について』。
ハドうー「まず、焚き火の薪の組み方からだ! 実利の『井桁組』か! 美学の『合掌組』か!」
ファイアイス「ヒャッハー! 全部まとめて燃やせば一瞬でホットだぜ!」
ザイオス「却下だ。燃焼効率が悪い。緻密な計算に基づき、空気の通り道を確保した井桁組こそ至高」
アスタロト「私は美しさを重視し、合掌組を推す。炎が天に昇る様は、堕天の記憶を呼び覚ます……」
議論が平行線を辿る中、書記をしていたヴェリタスが素朴な疑問を口にした。
「そもそも、魔法で火を起こせば済む話では?」
シン……と、会議室が静まり返る。 全員の視線がヴェリタスに突き刺さった。
ハドうー「ヴェリタス! 貴様、この議論の前提を覆す気か! これはロマンの話だ!」
ファイアイス「そうだそうだ! 火は自分で熾してこそロックなんだよ!」
ザイオス「正論は時に、場の空気を破壊するのだぞ…」
正論で会議をクラッシュさせたヴェリタスは、少しだけシュンとなった。
クロコダイノレが
「ワニは変温動物だから、火はありがたい…」
と呟いたが、その声は誰にも拾われなかった。
~砂漠の国イツヌの夜~
昼間の灼熱が嘘のように、砂漠の夜は凍えるほど寒かった。
「寒い…」カティアは震えながら毛布にくるまった。
「火をもっと大きくできないの?」エルも歯をカチカチ鳴らしている。
リリィだけは平然としていた。
「商売のチャンスよ」
「は?」
リリィはテントから出て、近くのキャラバン隊に向かって叫んだ。
「みなさーん! 奇跡の暖石販売します! 一個金貨3枚!」
寒さに苦しむ旅人たちが集まってくる。リリィは小さな石を見せた。
「これは賢者の山で採れた特別な石。手のひらで温めるとじわじわ熱くなります!」
人々は争うように石を買っていった。
ミレルカが小声で「それって普通の石じゃない?」と言うと、リリィは「黙ってて」と口元に指を当てた。
やがてキャラバンの人々が戻ってきた。
「全然温かくならないぞ!」 「詐欺じゃないか!」
リリィはにっこり笑って言った。
「当然です。石が熱くなるわけないでしょう?」
「なんだと!?」
「でも、私が詐欺師かどうか確かめようと石をずっと握りしめてましたよね?
その間、手は温かったでしょう?」
人々は呆然とした。
「つまり、石を握り続けることで血行が良くなり、手が温まったんです。詐欺ではなく、健康法なんですよ!」
その屁理屈に、誰も反論できない。
「今なら特別に『奇跡の冷石』も販売します! 暑い日に握ると涼しくなりますよ!」
驚くことに、数人が買っていった。
カティア「信じられない…」
エル「同じ石なのに…」
ミレルカ「リリィさん、それって完全に詐欺です」
リリィは肩をすくめた。
「彼らは自分の手を温められたでしょ? 私は結果を売ったのよ」
砂漠の月明かりの下、リリィはにやりと笑った。
ゲスに自由を与えよ、さすれば世界は燃える




