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その70 ラブ・イン・オオワクダニ、パインは鍋に、指輪は懐に

「けんたろう、見よ!本日の箱根・大涌谷は“地獄の釜”そのものじゃ!」


「すみません、魔王様がいなくても、ここは普通に地獄って呼ばれてます!」


 灰色の煙が立ち昇る大涌谷の地面。

 魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世は、観光パンフ片手に超ゴキゲン。


「けんたろう、余はこの“黒たまご”を10個食すぞ。寿命が百年は延びるから、婿のお主と千年ラブラブできるのじゃ!」

「胃も心も持ちませんから!!」


 魔王の周囲だけ、なぜか硫黄濃度が他の倍。

 使い道を間違えた魔力で“温泉たまご”が“地獄からの目玉焼き”に進化し、観光客がゾロゾロ引いていく。


 さらに魔王、

「余とけんたろうのラブラブ記念写真!」

 と人混みのど真ん中でけんたろうを持ち上げる。


 観光客に

「ご夫婦ですか?」

 と聞かれ、

「余の婿じゃ♡」

 と返す。

 けんたろうは震える手で黒たまごを握りしめていた。



 ◆魔王軍会議:クロコダイノレ慰労会・兼・『最強の鍋』探求の儀


 魔王城の食堂。そこには、巨大な鍋を囲む幹部たちの姿があった。勇者との戦いで心身ともに傷ついたクロコダイノレの慰労会である。


 ネフェリウス「クロコダイノレ、まずは無事の帰還、祝着至極。今日は無礼講だ。存分に英気を養うがよい」


「かたじけない…。皆の温情、骨身にしみる…」  

 包帯姿のクロコダイノレが涙ぐむ。


 ハドうー「うむ。して、本日のメインは『闇鍋』だ。各々が持ち寄った『最強』と信じる具材を投入し、究極の鍋を錬成する!」


 ザイオス「俺が持ってきたのは、冥界ケルベロスの骨から取った『地獄出汁』だ! 滋養強壮間違いなし!」


 ヴェリタス「私は、三日間祈りを捧げた聖水で清めた『祝福の豆腐』を。闇を浄化する光となるだろう」


 アスタロト「私は『フォアグラ』だ。濃厚な脂が、鍋に深みと背徳感を与える」


 次々とカオスな食材が投入される中、ファイアイスが満面の笑みで何かを鍋に投げ込んだ。


「ヒャッハー! 俺はこれだ!」  


 鍋の中に落ちたのは、パイナップルだった。


 ネフェリウス「き、貴様、正気か!? パイナップルだと!?」


 ハドうー「酢豚にパイナップルを入れるか否かで、人間界では百年戦争が起きると言うのに…鍋にだと…!?」


 ファイアイス「酸味と甘みが肉を柔らかくして、トロピカルな風味になるんだぜ! ハワイアン鍋だ!」


 ザイオス「邪道だ! 断じて認めん!」


 ヴェリタス「異端者め! 鍋の調和を乱す者は、たとえ同志でも許さん!」


 鍋を囲んで一触即発の事態となる。クロコダイノレがおずおずと口を挟んだ。


「あ、あのう…俺、普通に白菜とか豆腐とかで…」


 全員「「「黙れ、病人!!!」」」


「ひぃっ!」  


 クロコダイノレの心の傷は、回復するどころか、さらに深くえぐられた。


 ~その頃の勇者は~


 エルフの里。女王の前に、神妙な面持ちでリリィ一行がひざまずいていた。


 女王「…して、娘ハンナの様子はどうであったか」  


 エルとカティアが息をのむ。リリィは、懐から取り出したルビーの指輪をそっと女王の前に差し出した。


「女王陛下…残念ながら、ハンナ様と、連れ添っていた人間の男性は…お亡くなりになっていました」  


 女王の顔から血の気が引く。

「! そんな…!」


 リリィは悲しげに、しかし力強い声で続けた。

「ですが、悲しまないでください。お二人は、魔物に襲われて命を落としたのではありません。自らの意志で、新たな生を選んだのです」


 女王&仲間「「「は???」」」


「お二人は、人間とエルフの壁を越えた愛を、後世に伝えるべく、自らの命を『語り部の石』に宿したのです。このルビーの指輪が、その証」  


 リリィはそう言うと、指輪を光にかざした。


「この指輪に耳を澄ませば、二人の幸せだった日々の記憶が聞こえてくるはずです。『母上、私たちは幸せでした』と…」


 リリィは、指輪を女王の手に優しく握らせた。女王は涙を流しながら、指輪を耳に当てる。

(※実際には、風がヒューヒュー鳴っているだけだが、悲しみのあまり幻聴が聞こえている)


 女王「ああ…ハンナ…! 聞こえる…あなたの声が…!」  

 娘の死を悼みつつも、その幸せな最期(捏造)に、女王は少しだけ救われたようだった。


 エル「(…まあ、嘘だけど…嘘だけど、これはこれで…)」

 カティア「(ゲスなりに、最大限の優しさを見せたのか…?)」  

 仲間たちが、リリィの意外な一面に少しだけ感心した、その時。


 リリィは、そっと女王の肩に手を置いた。

「女王陛下。この『語り部の石』は、非常に強い力を秘めています。悪用されれば、世界の危機にもなりかねません。そこで、私たち勇者一行が、責任をもって管理・封印させていただきたく…」


 女王「おお、勇者よ…!そうか、わかった。頼んだぞ…!」


「はい。つきましては、この石を安全に封印・管理するための**『特別管理費』として、金貨五千枚ほど**、ご負担いただけないでしょうか。これも、ハンナ様の魂を安らかに眠らせるため…」


 ミレルカ「(…やっぱりゲスだった…!)」


 こうして、エルフの女王は悲しみの中にも一筋の光を見出し、勇者リリィは、人の悲劇を利用してちゃっかり管理費を請求するという、いつも通りのゲスな手腕を発揮したのであった。

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