その7 やさしさの税率は、1000%
■ まだ終わらない地獄会議
魔界王宮・玉座の間。
光も希望も絶えて久しい。議題、62個目。
「では次の議題、**“人間世界への経済的影響”**について……」
幹部たちの瞳に、光はなかった。
バルド(心の声)「魔王軍って、こんな事務的だったっけ……?」
ザイオス(メモに落書き)「会議で世界征服ってできるのか……?」
ネフェリウス(魔力スライムをいじる)「もう休憩挟もうよ…」
そんな沈黙を打ち破ったのは――
けんたろうだった。
「提案があります」
ピキィィ……(誰かの茶碗が割れる音)
「世界経済を混乱させれば、人間同士が潰し合い、魔王軍の労力は最小限です。たとえば……有力な大商人を拉致するとか。」
「あるいは、世界の主要都市を占領して、冒険者の通行税を1人あたり300Gにするとか……」
……沈黙。
からの――
\\\ ザワァ……!!! ///
「で、出たああああああ!!!」
「今回のはガチで悪魔!!」
「お金……人間のお金を、そこまで握るなんて……!」
バルド「経済って……それは人間が一番敏感なところ……」
ネフェリウス「ぐぅっ、私の悪知恵がかすむとは……!」
ザイオス「完全に悪魔……人間を操る悪魔……!!」
頭を持つデュランダル「もはやお前が魔王だよォ……」
けんたろう、冷や汗をかきつつも真顔で補足。
「人間って、お金絡むと理性が飛びますから。人の心は、財布に詰まってます。」
\\\ ひええええええええ!!!! ///
魔王「……会議、いったん休憩としようか。これは、胃がもたれる」
会議はようやく幕を閉じた――が、全員の心には**「けんたろう=経済的破壊兵器」**という認識が刻まれたのだった。
■ 一方そのころ、勇者リリィ
アソアハソの城下町にある、古びた訓練場の裏手。
酒場での噂を聞きつけた冒険者たちが、勇者に雇われるために列を作っていた。
だが。
リリィは、めちゃくちゃ真顔で一人ひとりに**“戦場面接”**をしていた。
「金が欲しい奴、前に出なさい」
――バサァッ(財布を見せる音)
どよめく男たち。
その中に、ひときわ体格の良い屈強な男が進み出る。
「お、俺を連れて行ってくれ!腕には自信がある!!」
リリィはじっと目を見て、静かに言った。
「保険、ないよ?
死んでも慰謝料なし。
指くらい落ちても文句言わないでね。
帰れなくなるかもしれないよ?
それでもついてくる覚悟、ある?」
屈強な男、ガタガタ震えて――
「す、すいません!!俺、農業の道に戻ります!!」
一目散に逃げていった。
周りの冒険者たちはざわついた。
「……え、やばい。勇者って、もっと優しいもんじゃないの?」
「いや、あれもう雇用主というより処刑人だよ……」
「想像以上にやべぇやつじゃね……?」
■ 最後のセリフ
リリィは、列の先頭に残ったチビの盗賊見習いを見下ろして、口元だけで笑った。
「やさしさ?……そんなの**税率1000%**で、もうこの世界には残ってないよ」
そして、顔も見ずに背を向ける。
\\\ 周囲、凍結。 ///