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その63 魔王軍アルバイト奮闘記~寝ても覚めてもゲス

 魔界の休日は、いつだって唐突に始まる。けんたろうは、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世(単語登録推奨)によって、人間界の遊園地に強制連行されていた。目の前には、チープなドクロが笑うお化け屋敷。


 入り口で魔王様は既にそわそわしていた。


「け、けんたろう…手を繋いでくれるか? わらわ、怖いのが苦手で…」


「嘘でしょう? 魔王城には、お化けより怖い悪魔がいっぱいいるじゃないですか!

 」

「それに、不死軍団が魔王軍にもあるでしょ!」


 館内に入ると、お決まりの演出が始まる。骸骨がガタガタ音を立て、幽霊が「うらめしや〜」と現れる。

 その瞬間、


「きゃあああ! けんたろう〜♡」


 魔王様は完璧なタイミングでけんたろうに抱き着いた。あまりにもタイミングが良すぎる。


「魔王様、さっきから抱き着くタイミング狙ってませんでした?」


「違うぞぉ…わらわは恐怖に身を任せているだけじゃ♡」


(棒読みすぎて怖い)

「♡マークで全部台無しです…」


 そんな会話をしつつ中へ入ると、闇の中から「ヒュ〜ドロドロ〜」という古めかしい効果音。そして、申し訳程度に血糊のついた着物を着たアルバイトの幽霊が、ふらりと現れた。その瞬間!


「きゃあああっ! けんたろう、助けて〜〜〜♡」  


 魔王は、待ってましたとばかりに絶叫し、けんたろうの背中に全力で抱きついた。


(驚くタイミングが完璧すぎるし、抱きつく力がラグビーのタックル並みなんだよ! 怖いのはお化けじゃなくてあんただ!)


 当のお化け役の青年は、魔王の迫真(?)の演技と、それにドン引きしているけんたろうの顔を見て、「あ、なんか…すいません…」と気まずそうに会釈し、闇に消えていった。恐怖を提供する側が謝罪するという、前代未聞の事態である。


 ~~川~~


 その頃。魔王軍最強の一人、アスタロト将軍は、日本の食品工場で純白の作業着に身を包んでいた。彼は、魔王と婿の温泉旅行費用を稼ぐという神聖な任務のため、たらこスパゲッティソースの製造ラインにその身を投じているのだ。


 ベルトコンベアを流れる、無数のたらこ。アスタロト将軍は、それを神速で処理しながら、熱い想いを胸にたぎらせていた。


(この一腹一腹が、魔王様と婿殿の笑顔に繋がるのだ…! あのザイオスに遅れを取るわけにはいかん!) ※ザイオスは別のバイトをしています


 彼は、薄皮からたらこをかき出す作業を、まるで敵将の首を掻き切るかのような鋭い眼光で行う。その集中力は凄まじく、彼の周りだけ時空が歪んでいるように見えた。


「アスタロトさん、すごい集中力だね。なんか、たらこが光って見えない?」  

 隣でマヨネーズを計量していたパートの鈴木さんが言うと、アスタロトはキッと顔を上げた。


「これは生命いのちの輝き! この輝きを、魔王様への忠誠心という名のマヨネーズと混ぜ合わせ、至高の一品へと昇華させるのが我が使命!」

「あ、うん…とりあえず分量だけは間違えないでね…?」


 . 彼のあまりの熱意と鬼気迫る作業風景は、工場の名物となりつつあった。

「アスタロトさんが作ったたらこソースは、なんか食べると元気になる」と評判なのは、また別の話である。


 ~~~川~~~


 一方、その頃の勇者パーティー。北を目指す一行は、静まり返った不気味な村に足を踏み入れていた。道端に、家の中に、村人たちがまるで人形のように眠っている。


 エル「なんだこれは…!? 全員、ただ眠ってるだけみたいだぞ!」

 カティア「気味が悪いわね…」

 エル「まさか…! 昔話で聞いた、エルフの呪いだ! 気に入らない人間たちを、永遠の眠りにつかせたという…!」

 ミレルカ「ひぃっ、呪いの村! 早く逃げましょう、勇者様!」


 仲間たちが青ざめる中、勇者リリィだけが、状況を冷静に(?)分析していた。彼女はニヤリと口角を上げると、倒れている村人の懐から財布を抜き取った。


「なるほど。じゃあ、村人の財産はいらないな。私たちが有効活用してあげよう♡」


 エル「おい! それはダメだろ! 人道的に!」

 カティア「ただでさえ呪いで大変なのに、追い剥ぎまでするなんて鬼よ!」

 ミレルカ「勇者様、どうか正気に戻ってください!」


 仲間たちからの非難の嵐を浴びながらも、リリィは全く動じない。むしろ、呆れたように肩をすくめた。


「お前ら、わかってないな。考えてもみろ。この村人たちが眠っている間に、私たちがこの資金を元手にさっさと魔王を倒すんだよ。彼らが目を覚ました時には、世界は平和になってる。その方がいいだろ?」


 そのあまりに斬新すぎる理論に、仲間たちは言葉を失った。一見、正論のようにも聞こえる。しかし、何かが、根本的に間違っている。


「それに、もし彼らが目覚めなかったら? このお金は永遠に誰にも使われず、ただ朽ちるだけだ。それこそ、もったいないお化けが出るだろ?」


 リリィはそう言って、ウインクしてみせた。



 夢を見るのはレム睡眠だが、リリィはゲスを見る!

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