その62 魔王軍アルバイト奮闘記~白衣の断罪者
魔界の昼下がり。魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世(コピペ推奨)が、美しくも苦悶に満ちた表情で胸を押さえているのだ。
「はぁ…はぁ…わらわの命は、もう長くない…」
魔王はそう言うと、可憐な口の端から一筋の赤い液体を垂らした。それを見たけんたろうは顔面蒼白になる。
「魔王様! 血だ! 血を吐いてますよ! 大丈夫ですか!?」
「けんたろう…来てくれたか…もう、長くは…ないやもしれぬ…」
消え入りそうな声で語りかける魔王。けんたろうは本気で心配し、彼女の肩を抱き寄せた。その刹那、ふわりと甘い香りが鼻をつく。
(……ん? この匂い、昨日魔王様が飲んでた高級クランベリージュースじゃね?)
魔王様の演技は、学芸会レベルを下回る迫真の大根ぶり。しかし、けんたろうは心優しい一般人。本当に心配してしまい、額に手を当てる。
「熱は…ないですね」
「けんたろう…最後に一つだけ願いが…」
「水? 薬?」
「キス…を…」
魔王様の瞳がキラキラと希望の光で輝く。けんたろうは青ざめた。
「それ、病気じゃなくて作戦ですよね!?」
「愛という名の不治の病じゃ♡」
「治す気ないじゃん!」
魔王様は突然ガバッと起き上がり、
「けんたろう、愛の特効薬を♡」 と両手を広げて迫る。
けんたろうは「魔王軍の会議に行ってきます!」と告げて、寝室から全力ダッシュ。魔王様の愛は今日も重い。
◆漆黒の騎士、白衣を纏い、今日の献立はカレーなり◆
その頃。魔王軍の実力者・黒騎士ヴェリタスは、これを読んでるあなた住んでいる街の隣町にある小学校の給食センターにいた。漆黒の鎧とは真逆の、純白の白衣と帽子、マスクに身を包み、彼は巨大な寸胴鍋の前に立っている。
「この人参…まさに戦士の血のような鮮やかな橙色…」
隣で野菜を洗っているパートの田中さん(50)が、 「ヴェリタスくん、そんな物騒な例えやめなさい」 と注意する。
「申し訳ございません、田中様」
ヴェリタスは丁寧に頭を下げた。魔王軍では恐れられた黒騎士も、給食のおばちゃんには勝てない。
その時、調理主任の佐藤さん(55)が厨房に入ってきて、 「ヴェリタスくん、今日の献立のカレー、辛さはどうする?」
「我が剣で切り裂いた敵の断末魔のような…」
「日本語で」
「…中辛で」
子供たちが給食室の窓から覗いているのに気づき、ヴェリタスは手を振る。子供たちは「黒騎士のおじさーん!」と手を振り返す。最初は怖がっていたが、今では人気者だ。
「ヴェリタスお兄さん、今日のカレーはどんな感じ?」
「貴様らの成長を願い、愛という名のスパイスを込めた!」
「やったー! 愛のカレーだ!」
田中さんが呟く。
「愛って、コンソメだったのね…」
~~~川~~~
一方、その頃の勇者パーティー。ウズーベの村の安宿で、一行は次の目的地について議論を交わしていた。
カティア「地図を見たけど、やっぱり東の商業都市連合へ向かうのが一番栄えてるぞ」
エル「東は魔物も強いって噂だ。危険だが、その分私たちも成長できるんじゃないか?」
ミレルカ「栄えている街なら、きっと良い装備も売ってますよね!(どうせリリィ様は私たちには買ってくれないけど…)」
三人が真っ当な冒険者らしい意見を出し合う中、今まで腕を組んで黙っていた勇者リリィが、静かに口を開いた。
「北だ」
「「「え?」」」
仲間たちの困惑を意にも介さず、リリィは続ける。
「いいか、よく聞け。東の商業都市なんて、人が多すぎる。そんな場所でイタロマ国王の金の冠を売ってみろ。一瞬で足がつくに決まってるだろ!」
悪びれる様子もなく、むしろ名案を思いついたとでも言いたげな顔で言い放つリリィ。仲間たちは、あっけにとられて言葉を失った。
カティア「あ…そういう理由…」
エル「私たちの成長とか、世界の平和とか、もうどうでもいいんだな…」
ミレルカ「勇者とは…正義とは…うっ、頭が…」
リリィはそんな仲間たちを尻目に、ニヤリと笑いながら金の冠を磨き始めた。
「北の僻地なら情報も遅いし、換金率も悪いかもしれんが、安全が第一だ。これが一番クレバーな選択なんだよ♡」
そのブレない姿勢は、もはや一種の才能であった。
ゲスのウィドマンシュテッテン構造!




