表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/115

その60 魔王軍アルバイト奮闘記~炎の倉庫作業員~

 魔界の午後。けんたろうは、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世(Google翻訳でも翻訳を拒否する複雑さ)と一緒に、箱根旅行の荷造りをしていた。


「けんたろう♡」魔王様が嬉しそうにクローゼットを漁っている。


「旅行の準備じゃ!まずは、魔剣アルケラトスを持って行くとするかの♡」


 魔王様が取り出したのは、光と闇を同時にまとう、漆黒の魔剣だった。剣身からは不吉なオーラがもわもわと立ち上っている。


「そんな物騒なもの、ダメでしょ!」けんたろうが慌てて止める。

「温泉旅行に世界を滅ぼす剣を持参してどうするんですか!」


「でも、もしもの時に備えて…」


「もしもの時って何ですか!?」


「温泉で他の女がけんたろうに言い寄ってきたら、その女を消し炭にするのじゃ♡」


「それ完全に殺人じゃないですか!しかも大量破壊兵器で!」


「では、これはどうじゃ?」


 今度取り出したのは、古代文明を一夜で滅ぼしたという『災厄の杖』だった。


「それもダメです!」


「では『絶望の鎧』は?」


「ダメ!」


「『破滅の指輪』は?」


「ダメ!」


「『終末の首飾り』は?」


「ダメ!なんでそんなヤバい物ばっかり持ってるんですか!」


 魔王様がしょんぼりする。


「でも、けんたろうを守るためには…」


「普通の旅行なら、着替えとタオルがあれば十分ですよ」


「普通…」魔王様が呟く。「普通の恋人同士の旅行…♡」


 そして突然、魔王様の目がキラキラと輝いた。


「そうじゃ!普通のカップルのように、お揃いの服を着るのはどうじゃ?」


「それは良いアイデア…」けんたろうがホッとした瞬間。


「『魂を捧げよ』と書かれたTシャツを作ったのじゃ♡」


「それも十分危険ですから!」


 ~~~川~~~


 その頃、これを読んでいるあなたの世界では、魔王軍の面々が各地でアルバイトに励んでいた。

 あなたの住む街の一角にある、巨大な冷凍食品倉庫。 そこでは、魔王軍幹部の一人、ファイアイスが「高時給!冷凍倉庫内でのカンタンな仕分け作業!」という求人広告に釣られ、せっせと働いていた。


「ヒャッハー! 冷凍マグロだか何だか知らねえが、凍っててカッチカチだぜ!」  ファイアイスは、マイナス20度の極寒空間にもかかわらず、その右半身は、彼の魔力の源である地獄の劫火が常にメラメラと燃え上がっている。


「よっしゃ、この段ボール、あっちの棚に移動だな!」  

 ファイアイスが凍った段ボールを軽々と持ち上げた、その瞬間。


 ジュワアァァァァァァッッ!!!


 彼の燃え盛る右手と右肩に触れた段ボールが、一瞬で蒸発。中の冷凍エビピラフは解凍を通り越し、香ばしい**「焼きピラフ」**へと昇華された。


「おっと、いけねえ。少し熱すぎたか?」  

 ファイアイスが首をかしげる。その時、彼の背後から倉庫のバイトリーダーが血相を変えて飛んできた。


「君ぃーーーーっ! 何やってるの!? なんで倉庫内で発火してるの!? というか、なんで君の右半身燃えてるの!?」


「燃えてるんじゃねえ、これが俺の通常モードだ! 文句あんのか!?」

「ありまくりだよ! そこにあるアイスクリームの在庫が全部溶けて『イチゴミルクの湖』になってるじゃないか!」


「ヒャッハー! そいつはツイてるな! みんなで飲もうぜ!」

「そういう問題じゃなーーーい!!!」


 バイトリーダーの絶叫が響き渡る。その日、ファイアイスは「君、もう来なくていいから…」と肩を叩かれ、日給と反省文(全文「ヒャッハー!」)を渡されてクビになった。  彼は帰り道、しょんぼりと呟いた。


「くそ…あと4万2千円だったのに…。次は“溶接工”ってやつならイケるかもしれねえな…」  


 その日の夕食、魔王城ではやけに香ばしい海鮮焼きピラフが振る舞われたという。


 一方、その頃の勇者は・・・


 アルデンヌの塔の麓。落とし穴から引き上げられた大泥棒堀木とその子分たちは、縄でぐるぐる巻きにされていた。


「うう…完敗だ…」堀木が情けない声を上げる。


 カティアが堀木の荷物を調べていた。


「すごい量の宝物ね!これ全部盗んだものなの?」


「へへ…俺の20年間の集大成よ…」


 ミレルカが美しい金の冠を取り上げた。


「あ!これはイタロマ王国の王冠です!新聞で『盗まれた』って読みました!」


「おおお!」エルが目を輝かせる。

「これを返せば、王様に認めてもらえます!私たちの功績として!」


 ミレルカが嬉しそうに頷く。


「はい!王様に返しに行きましょう!盗まれた宝物を取り戻した勇者として、きっと感謝されますよ!」


 カティアも拳を握った。


「よし!これで私たちも一人前の勇者として認められるわ!」


 三人が盛り上がっている時、リリィが金の冠を手に取り、じっくりと眺めていた。


「…この王冠、相当価値が高そうね」


「そうですよ!イタロマ王国の王家に代々伝わる貴重な…」ミレルカが説明しようとした時、リリィがにやりと笑った。


「よし、これを遠くの街で売るぞ!」


 仲間たち「「「えええええ!?」」」


「リリィ!それは盗品よ!」エルが慌てる。


「王様に返すのが正義でしょ!」カティアが叫ぶ。


「そうです!私たちは勇者なんですから!」ミレルカが涙目で訴える。


 しかし、リリィは既に金の冠を背負袋に詰め込んでいた。


「考えてもみなさいよ。王様に返したところで、『ありがとう』って言われるだけでしょ?お金にはならない」


「お金の問題じゃない!」


「でも、この王冠を売れば、私たちの冒険資金が大幅にアップする。そうすれば、もっと多くの人を助けられるじゃない」


「それは屁理屈よ!」


 リリィが振り返って、にっこりと笑った。


「屁理屈でも結果が全て。それが現代勇者の美学よ」


 堀木が縄の中から呟いた。


「おいおい…俺より悪党じゃねえか…」


「何か言った?」リリィが堀木を見下ろす。


「いえ…何も…」


 こうして、大泥棒を捕まえた勇者一行は、図らずも新たな泥棒行為に手を染めることになった。


 しかし、この時誰も知らなかった。


 イタロマ王国では、王冠の返却者に対して「1000万ゴールドの報奨金」が設定されていたことを。


 リリィの判断が、実は経済的に大損失だったということを。



 ゲスの格言:「目先の利益は、最大の損失!」


 ゲスの盲点方程式【L = S - B】!!!

 L = Loss(損失)

 S = Short-term thinking(短期思考)

 B = Big picture ignorance(大局無視)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ