その6 逃げろよ、絶望を引きずってな
さあ、笑っていいのか震えるべきか――魔界ではまたも終わらぬ会議、
そして人間界では、**“勇者が怖すぎる”**という新たな風評被害が加速する!
では、さっそくどうぞ♡
■ 魔王軍、また会議
玉座の間。
魔王軍の作戦会議は、ついに第12ラウンドへ突入。
既に日が2回沈んでいる。
「次の議題に移ります……」
ネフェリウスが浮かべた魔力スクリーンに、今度は少女の姿が映し出された。
「神の加護を受けし、新たなる勇者――その名はリリア・セレナ・フェルミナ。」
どよめく幹部たち。
バルド「…まさか。勇者が…また……」
ザイオス「いや、しかしまだ16歳。討伐には早いだろう」
ネフェリウス「神の加護とはいえ、即戦力ではない。様子を――」
そこに、またもや声が上がる。
「今すぐ全戦力をもって、叩き潰しましょう」
――けんたろうである。
幹部たち、ピタリと動きを止めた。
ザイオスはコーヒーを吹き出し、バルドはメモ帳を落とし、ネフェリウスはメガネがズレた。
「ま、またそれか……!」
「やっぱりこの子、根っこがやばいよ……」
けんたろうは至極まじめな顔で続ける。
「こちらは魔王軍。世界の敵とされる以上、成長を待つ理由はありません。
敵が子供だろうが芽のうちに摘む。それが現実的な判断です」
……どん引きする魔王軍一同。
空気が急速に冷える。会議の気温が3度下がった。
■ 財務担当の勇気ある反論
そんな中、勇気を出して口を開いたのは――
魔王軍 財務担当官・アグナス・カウント・ヴァージニア(通称:アグちゃん)。
見た目は小柄なスーツ姿の悪魔。眼鏡がキラリ。
「えー、勇者潰し作戦についてですが……コスト的な問題がですね……」
けんたろう「え?」
「魔王軍の戦闘費、食糧支出、予備人材のローテーション……今、全戦力を動かすと年間予算がオーバーします。」
「しかも定期昇給と魔物の産休手当が今年から新設されまして……」
\\\ ズコーーーーッ!! ///
幹部たち、崩れる。全員、正座状態。
バルド「戦争って、そんなリアルな問題あるの!?」
ザイオス「おれ、予算で動いてたの!?」
ネフェリウス「人間の勇者より、こっちが現実に負けてる気がしてきたわ……」
■ 一方そのころ、勇者サイド
場所は人間界、酒場《猪のツノ亭》。
壁の修理は終わっていない。むしろ穴の周りに「勇者注意」って貼り紙がしてある。
リリィは、豪快に財布をテーブルに叩きつけた。チャリン!!
「強い仲間を、よこしなさい」
マスター、びくっ!!
「い、いえ……その……」
「やだなぁ、俺もう腰が……」
「俺を選ぶなよ……頼むから……」
「マジで。名前呼ばれたら即、荷物まとめて逃げるレベルだよ……」
酒場全体が、“修学旅行のレク係を回避する中学生”みたいな空気に包まれた。
リリィは、凍てつく瞳で、無言のまま酒場を見渡す。
全員の動きが止まる。静かすぎて、壁の穴から入り込んだ風の音だけが響く。
マスターは震えながら言う。
「そ、そんな強い方が、ここには……」
リリィは、冷たく微笑んだ。
「逃げるのはいいよ。…でも――」
「絶望を引きずって、逃げなよ」
\\\ ぞわぁぁぁ……!! ///
酒場の空気、瞬間冷却。
誰が悪魔だよ、って空気が充満していた。