その58 勇者ですが、ダンジョン攻略は放火が一番効率的ですよね?
◆魔王のピュアすぎるキスおねだりタイム◆
魔界の夕暮れ。けんたろうは、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世(つっかえずに言えれば、魔界検定準2級)に、玉座の前で正座させられていた。
「けんたろう…」魔王様が頬を赤く染める。
「わらわ、お前に頼みがあるのじゃ…」
「は、はい…」
けんたろうが身構える。また何かヤバい魔法実験かと思いつつ。
「…き、キスを…してほしいのじゃ」
けんたろうの脳内で、「ポンッ」と可愛い音がした。
「え?キス?ふ、普通のキス、ですか?」
「もちろんじゃ!わらわも乙女。愛する人に優しくキスされてみたいのじゃ♡」
珍しく恥じらう魔王様。これなら大丈夫そう…とけんたろうが顔を近づけた瞬間、魔王様の瞳がきらりと光った。
「あ、でも軽く魂も吸わせてもらうかもしれん♡」
「ひぃぃぃ!やっぱり危険じゃないですか!」
けんたろうが後ずさりする。魔王様は困ったような顔をして、
「じゃ、じゃあ魂は半分だけに…」
「半分でも死んじゃいます!」
しばらくの押し問答の後、魔王様は少し拗ねたような表情を浮かべた。
「…あなたがしてくれなくても、わらわがしてあげるのじゃ」
そう言って、魔王様がけんたろうに近づこうとした時―――
がらがらがら…
玉座の間の扉が勢いよく開かれ、ネフェリウスが慌てて駆け込んできた。
「魔王様!大変です!温泉旅行の件で緊急事態が…あ」
魔王様とけんたろうの微妙な距離感を見て、ネフェリウスは固まった。
「…お取り込み中でしたか」
ばたり。
けんたろうは安堵と恥ずかしさで失神。魔王様は頬を膨らませた。
「ネフェリウス…空気を読め」
◆魔王軍作戦会議:議題『通貨問題緊急対策本部』◆
魔王軍総司令官・ハドうーが司会を務める会議室。テーブルには「極秘」の判子が押された資料が山積みになっている。
「諸君、今回の議題は深刻だ」
ハドうーが重々しく口を開く。
「我々の通貨・デモンが、婿殿の住んでいた日本では使えないことが分かった。温泉旅行の費用をどうすればよいか、知恵を貸してくれ」
バルドが即座に手を挙げた。
「簡単じゃないか。力で伏せる」
「具体的には?」
「日本の政府に乗り込んで、『デモンを正式通貨として認めろ』と脅す。断ったら国ごと征服する」
今度はファイアイスが立ち上がった。
「銀行強盗だー!俺の炎で金庫を溶かして、現金を根こそぎいただく!ヒャッハー!」
ザイオスが拳を机に叩きつけた。
「馬鹿者!それで魔王様が喜ぶと思うのか!『愛する婿殿との温泉旅行の資金は強盗で調達しました』なんて報告できるか!」
「じゃあお前はどうするんだよ!」
「俺は…俺は…」
ザイオスが唸る。
「正々堂々と決闘で勝ち取る!日本の総理大臣と一騎打ちだ!」
「それも問題行為よ」とアスタロト。
ネフェリウスが静かに立ち上がった。
「魔界の姿を忍んで、日本で貨幣を稼ぐしかあるまい」
「それって…」
「アルバイトだ。我々が人間界で働くのだ」
会議室がざわめいた。
ヴェリタス「我々魔王軍幹部が…アルバイト…」
ネフェリウス「時給で計算すると、魔王様の温泉旅行費用を稼ぐには…」
電卓をパチパチ叩く音。
「一人あたり、月50時間働けば何とか・・・なる?」
「おいおい!そんなことやってたら、勇者はどうするんだ??」
ファイアイスが叫んだ。
「しかし、愛する魔王様のためだ。やるしかあるまい」
こうして、魔王軍史上最も平和で最も過酷な作戦が始まることになった。
◆勇者一行、アルデンヌの塔で放火未遂事件◆
勇者たちの前に巨大な石の塔が、そびえ立っている。
エル「高いけど…5階くらい?一気に駆け上がってやる!」
カティア「魔物を倒して突き進むぜ、腕が鳴る!」
ミレルカ「大泥棒・堀木を無事に捕まえましょうね」
三人がやる気に燃えていた時、リリィがため息をついた。
「めんどくせーな。火をつけて、堀木をあぶり出すぞ!」
仲間たち「「「え??」」」
ミレルカが慌てて駆け寄る。
「リリィさん!建造物を痛めてはいけませんよ!ここは歴史ある塔です!」
リリィがリュックから油を取り出そうとしていた手を止めた。
「あー、そっか。じゃあ別の方法で」
今度は謎の草束を取り出した。
「じゃあ、毒草をいぶして、あぶり出してやる」
エル「それも危険よ!毒煙で堀木が死んじゃう!」
「死ぬ前に塔から出てくるだろ。その時に捕まえればいいんだよ。」
「そもそも、悪党に慈悲はいらないだろ」
仲間たちは、(お前もだろ!)と心の中でハモった。
善も悪も、ゲスも、ただの選択肢だ!




