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その53 ラブラブ(心臓に悪い)タイム in メフィス・ヘレニア・ダークネス・クレプスキュール宮殿

 けんたろうは今日も魔王様(ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世)にぎゅっと抱きしめられていた。


「けんたろう……今日も可愛いのう。息まで愛しい」

「ひぇっ……近い近い近い……!」


 逃げるように視線をずらした先、黒曜の棚に並ぶ精巧なフィギュアが目に入る。


「わ、フィギュアだ! 魔界にも……すごいディテール……」


 そっと指先で触れた瞬間、魔王様の手がやさしく、しかし有無を言わせぬ力でけんたろうの手首を包んだ。


「けんたろう。それには触れるでない」

「す、すいません・・・魔王様の大切なものでしたか・・・」

「いや、それは別次元で暴れていた破壊神だ。余が倒して封印してその姿になっておる。動かないが魂は死んでいないから気をつけるんじゃぞ」


「………………………………」


 ぱたり。


 けんたろうは綺麗な音を立てて失神。魔王様はふわりと抱き上げ、膝に寝かせ、頬をすり寄せた。

「恐怖で気絶する婿も、また愛らしい」



 ~~回転~~



 ◆魔王軍会議:下等生物・人間の思考と行動原理について


 議長:ネフェリウス  出席:ハドうー(午後は通院のため早退予定)、ザイオス、ヴェリタス、アスタロト、ファイアイス  欠席:バルド(出撃中)、クロコダイノレ(治療中・労災)


 ネフェリウス「本日の議題は『回転ずしにおける最適な食べる順番』である。初手から語るである」  

 ハドうー「まず“たまごを始めに食べる”のはやめろ。それはデザートを始めに食べるようなものだ」  

 アスタロト「同意。板前の力量を見る玉だが、序盤に甘味を入れると味覚の地図が狂う」  

 ファイアイス「いきなりウニ! いきなりクライマックスだ!」  

 ザイオス「ダメだ。味が濃く、脂も香りも支配的。序盤で味蕾を焼き切ると中盤が死ぬ」  

 ハドうー「“味のおとなしいかっぱ巻き”はメインの前座。口の準備運動に良い」  

 ヴェリタス「その後、白身(ヒラメ、スズキ)、ホタテ、光り物を薄めに。中盤で中トロへ」  

 ネフェリウス「そして“ウニで持っていくんだ”。締めのクライマックスとして配置する」  

 ファイアイス「炙りサーモンはいつだ!」  

 全員「中盤! 火力を序盤に出すな!」  

 ハドうー「途中でガリを挟め。口内リセットの“戦略的撤退”だ」

 アスタロト「アガリ(お茶)で終戦。たまごは最後の評価枠、もしくは子ども心のデザートとして締めろ」


 結論(推奨フロー):


 前座:白身→貝→薄めの光り物

 中盤:炙り系・中トロ

 セットアップ:かっぱ巻き

 終盤:ウニで持っていく、イクラなど濃厚軍

 締め:たまご(評価枠)→アガリで口を閉じる

 ファイアイス「ヒャッハー! じゃあオレは“全皿ファイヤー”で——」  

 全員「火は黙ってろ!!」


 ネフェリウス「以上を“魔界食順規範 MSEQ-回寿-01”として回覧する」  

 ハドうー(心の声)「今日は福神漬け以上の働きができた」


 ~~八百屋~~


 ◆勇者一行、ゲスの路上パフォーマンス


 朝の市場。八百屋の前で、勇者リリィが剣を構えた。

「見てろ。高速素振りいくぞ!」


 シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ!  超高速の剣閃が空気を裂く。


 店主「勇者様! さすがの腕前ですね!」  

 リリィ「あ! 剣がすっぽ抜けた! よし! この新しい剣で・・・」  

 店主「それ、大根だから! お金払って!」  

 リリィ「じゃ、急いでるから後でね!」  

 すたこらさっさ——勇者は去っていった・・・


 カティア「どっちが盗賊だよ……」  

 エル「倫理観の素振りもしろ……」

 ミレルカ「でも切れ味は良さそう(困惑)」


 ~~テラス~~


 夕暮れ、目を覚ましたけんたろうに、魔王様はそっと紅茶を差し出す。 「けんたろう、今度は回転ずしに連れていこう。順番は“かっぱ巻きから、最後はたまご”じゃ」 「……胃に優しいやつでお願いします」  棚の破壊神フィギュアの瞳が、ほんの一瞬きらりと光った——ような気がしたのは、気のせいであってほしい。

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