その5 泣き叫べ!
■ 終わらない会議、という地獄
魔界王宮、玉座の間。
魔王軍会議――第11ラウンド、すでに4時間経過。
悪知恵魔導士ネフェリウスが「では次に、人間界における食糧供給網の遮断について…」と語り始めたところで、
ついに、幹部たちが声を上げた。
「多くない!? 会議! 多すぎじゃない!?」
叫んだのはザイオス。涙をこすりながら。
「朝9時から始まって、もう昼過ぎてるんだよ!?何回“次の議題”って言うんだよ!?」
「そのわりに議題、毎回けんたろう様発信だしな…」と、バルド。
「いや、だってアイツ、ヤバイ案しか出してこないのに全部真面目顔だから!!」
「ある意味、サイコホラーだよ!ヒューマン・ホラー・ストラテジスト!」
ネフェリウスも頭を抱える。
「今の若者……こわい……」
■ 魔王軍、けんたろうにビビりはじめる
けんたろうがコホンと咳払いをしただけで――
**バッ!!**と全員が一斉に身を正す。背筋ピーン!!
「まさか…また……!?」
「今度は何!?何が破壊されるの!?」
けんたろうは真面目な表情で、静かに発言した。
「人間のインフラ、たとえば……橋や港を破壊するっていうのは、どうでしょう?」
――静寂。
からの――
\\\ ざわああああああああっっ!!!! ///
「うわあああああああああ!!!!」
「ひいいいいい!!!」
「ええええええええええええ!!!!」
バルド「そ、それは…物流・人道・文化的象徴のトリプル破壊……!!」
ザイオス「しかもポイントを突きすぎてる!!ピンポイント爆撃じゃん!」
ネフェリウス「それ言われたらもう戦わなくても勝っちゃうじゃん!!」
デュランダル(手に持った頭)「いや、まじで俺たちより悪魔だって。現代の人間怖すぎでしょ。」
ザイオス「なあ…けんたろうってさ…俺たちより悪魔じゃね?」
「うん…悪魔より悪魔だわ……」
会議室、凍りついた空気。
だがその中心で、ただ一人、真面目な顔で頷く高校生がいる。
■ 魔王の一言
魔王《ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世》が、ゆっくりと口を開く。
「けんたろう……おぬし、本当に地上から来たのか?」
「はい。地理のテストは平均点でしたけど、社会科の授業で“インフラが止まると国が終わる”って聞きました」
全魔王軍、泣きそう。
「現代教育、こわっ!!」
■ 一方そのころ、人間界
アソアハソ王国、南門通りの老舗酒場《猪のツノ亭》。
重たい木の扉が開くと、そこには一人の少女――
金髪、碧眼、白銀の鎧、リリア・セレナ・フェルミナ(通称:リリィ)。
がっぽりと膨らんだ財布を握りしめて、**「え?ご褒美クエストクリア後の報酬タイム?」**みたいなテンションで入ってきた。
が――
「お嬢ちゃん、こんなとこ来る場所じゃねぇぞ?ガハハハ!」
入って早々、酔っ払いのオヤジが絡んでくる。
「騎士団ごっこは帰ってからやりなぁ!ガッハッハ!!」
周囲の酔っ払いも笑い声で煽る。軽く、ナメきった雰囲気だ。
――しかし
リリィの笑みは、**完全に“無”**だった。
瞳の奥に、何もない。いや、むしろ“決壊”していた。
「……もう一回言って?」
感情のない声。笑っているようで、笑っていない。
次の瞬間――
ズガァァァァン!!!!
酔っ払い、拳一発で壁にめり込む。
壁の石が吹き飛び、外の鳩が驚いて飛んでいった。
\\\ 酒場、全員固まる。 ///
「………え……」
「……勇者、ってあれだよね……」
「王城ぶっ壊した女……だよね……?」
リリィは財布をぽんぽんと指で弾いてから、にこりと笑った。
「ごめんごめん。金はあるから、壊した壁は後で弁償するね☆」
誰も何も言えなかった。
店主はその場で正座した。