その47 愛は凶器、勇者はリサイクル
――愛と恐怖は表裏一体。けんたろうの心臓は今日も酷使されている。
魔王城の廊下。
けんたろうはおずおずと、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世(名前の長さでさえ凶器)と並んで歩いていた。
魔王はご機嫌。
「婿よ♡ さっきの晩餐で口に付いていたスープの跡、余の指で拭ってやった時の顔…あれは最高に愛らしかったぞ♡」
「ひいいい!もう忘れてください!というか指で拭わないでください!ハンカチでやってください!」
けんたろうが必死で赤面していると――。
向こうの角から、どすん、ずしん、と地響きが近づいてきた。
現れたのは――八つ首の大蛇「やまたのおろち」をさらにグロテスクに魔改造した魔物。頭が十二本。うち三本は逆向きに生えている。口からは炎、毒霧、歌舞伎の見得ポーズまでの謎仕様。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!」
けんたろう、即・失神。床にダイブ。頭からカーペットにめり込む。
「む? 婿よ?」
アスタロト将軍が飛び出してきて、困惑顔。
「魔王様、新しい魔物を廊下に配置したのですが……あれ? 婿殿?」
魔王は、しゃがみ込みながら優しく失神したけんたろうの頬を撫でる。
「……婿は気を失っておる。ふふ、かわいいものじゃ。寝室に連れていって、余が直々に“看病”してくれる♡」
アスタロト(看病=キス100連発の刑では?)と、顔を青くする。
一方そのころ、勇者パーティ。
山を越えてボロボロになった一行は、ようやく村の明かりを発見した。
エル「やった!村だ!生きてるうちに人里に着けるなんて!」
ミレルカ「あれが……ウズーベの村……!文明の光がこんなにありがたいなんて!」
リリィ「今夜はさすがに村に泊まるか!もう無理だ!テント?地べた?無理無理!」
カティア(あれ?今日のリリィ、妙にまとも……ゲスさがない?疲労で“普通の人”になってる?)
安堵したのも束の間。
突如、村の入り口に巨大なワニ+恐竜のような獣人が巨大な斧を持ち仁王立ち。
魔王軍アニマルモンスター軍団長・クロコダイノレ。
「勇者リリィよ……我が牙と爪で、その命を頂戴するッ!!!」
リリィ「うわあああ!?ここで!?なんで村の目の前にボスキャラ!?宿に入る直前に襲うなよ!」
エル「でも戦うしか……!」
ミレルカ「私もうMPゼロなんですけど!」
カティア「やれやれ……」
リリィは剣を抜き、構える。
「くそっ、やるしかないのか……!」
――が、どこかに漂う違和感。
カティア「今回、ゲス要素ないな……」
ミレルカ「今日は休暇扱いで“まとも勇者”回なんじゃ……?」
村人たち「宿、早く入ってください……」
勇者一行「いやそれができないんだよ!!」
こうして、戦闘前からカオスが充満していくのであった――。
クロコダイノレが吠える。
「勇者リリィ!我が牙にかかって無様に果てよ!」
リリィは剣を構えながら、口元をニヤリと歪めた。
「……ふふん。いいわねぇ、そのドス黒い鱗。高く売れそうだわ♡ 村人たちに“安全保障料”として売りつければ、私の財布がウハウハ……」
エル「ちょ、リリィ!?またゲスな方向に!」
ミレルカ「戦う前から解体と転売の話!?倫理どこいったの!?」
カティア(……あ、やっぱり今日もゲスだったわ。安心した)
クロコダイノレ「お、お前……俺を“金になる肉と皮”としか見てないのか……!?魔王軍の威信が……!」
リリィは肩をすくめ、剣先をわざとカチカチ鳴らす。
「ごめんねぇ♡ でもこの世界、魔物より人間の方がよっぽど腹黒いのよ? 安心して。ちゃんと全部無駄なく使ってあげるから――爪はアクセサリー、肉は非常食、骨は武器に♡ サステナブル勇者ってやつ?」
エル「ブラックすぎる!地球環境を守るためにモンスター狩るな!」
ミレルカ「SDGsってそういう意味じゃない!」
クロコダイノレ「ぐぬぬぬぬ……!悪魔より悪魔だ……!」
カティア(ゲス勇者復活~。安心安心)
まごうことなきゲス!!




