その45 九頭竜をデートコースに選ぶ魔王!悪魔的スリルの誘いだったが、実は勇者の方が怖かった件
魔界の夜。
けんたろうは魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の膝の上に座らされ、背後から抱きしめられていた。
(……いや、なんでこんな構図なの?
これ、完全に“王座に座るラスボスと、その膝の上にいるペット”だよね!?)
魔王は優雅にワインを傾けながら、ふとけんたろうに尋ねられた。
「……あ、あの…魔王様。質問してもいいですか」
「許す。何だ?」
「魔王様って、怖いものとか……あるんですか?」
魔王は鼻で笑い、漆黒のマントを翻す。
「余に怖いものなど、存在せぬ」
「ですよねー……」
「強いて言うなら……別次元にいる邪悪な九頭竜よ。あやつだけは、始末しておかねばなるまい」
「えっ……く、九頭竜!? 別次元!? スケール違いすぎません!?」
「婿も一緒に来るか?♡」
「こわいいいいいいいい!!!!」
――魔王のラブが、いちいちホラー。
けんたろうの心臓は、愛と恐怖の両方で常に限界突破していた。
◆ 魔王軍会議:魔界教育課程について ◆
場面は変わり、魔王城の会議室。
勇者との戦闘? 侵攻作戦? そんな議題はどこへやら。今日のテーマは「魔界教育課程の改革」だった。
ネフェリウス「……第二言語は必要である」
アスタロト「しかし母語の習得が優先されるべきではないか?」
バルド「これ以上カリキュラムを増やして、幼少期に過度な負担をかけてはならん」
ザイオス「いや、まずは異文化に慣れ親しませることだ。学問として詰め込むのではなく、『素地を培う』活動から始めるべきだろう」
一同「おおおおおお!」
……魔王軍、まさかの教育熱心。
彼らは「第二言語活動」「自己肯定感の育成」「異文化交流の重要性」について延々議論を続け、気付けば人間界の教師顔負けの真剣モードになっていた。
アスタロト「では、魔界版・英語村を作るか?」
バルド「いやいや、まずは安全な環境づくりが大切だろう。炎の海とか溶岩地帯は教育的に不適切だ」
ネフェリウス「うむ、それは確かに」
ザイオス「給食はやはりバランスのとれたものを――」
ファイアイス「唐揚げとポテトは毎日出すべきだな!」
一同「黙れ!」
……勇者と戦うより、教育委員会ごっこに熱中している魔王軍であった。
◆ 勇者一行の珍道中 ◆
一方そのころ――。
勇者リリィ一行は、イタロマ王の冠を盗んだ盗賊・堀木を追い、アルデンヌの塔を目指していた。
だがその道のりは険しく、山越えが必要だった。
ミレルカ「勇者様……もう足が……動かない……」
エル「私も……もう足が前に出ません……」
リリィ「はあ!? 情けない! いいか、お前ら。体を前に倒そうとすると……ほら、足が出るだろ? それでいけばいいんだよ!」
ミレルカ「す、すごい! こんな方法があったなんて!」
エル「勇者様……天才です!」
リリィ「これが重力前傾歩行術よっ!」
カティア(……それってただ歩いているだけじゃないの?)
勇者リリィ。今日も仲間をゲスい方向に導きつつ、なぜか絶賛されていた。




