その43 ~悪魔的に世界を滅ぼしたのに、実は勇者そっちのけだった件~
魔界王宮の広間。
いつものごとく、けんたろうは壁際でビクビクしながら、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の所在を探していた。
「あれ? 魔王様がいない……」
いると怖い。いないと寂しい。
──まるで、ホラー映画のBGMが止まった瞬間みたいな、逆に怖いやつだ。
そんな中、魔王の側近・デュランダル卿が厳かに言った。
「魔王様は、どこかの世界に召喚されておられます」
召喚!?異世界出張!?
けんたろうが心配でソワソワしていると――
「ただいま」
背後から声。
振り向けば、漆黒のマントがゆらりと翻り、魔王ご本人降臨。
その瞬間、けんたろうの心は一瞬で揺れる。
怖い…でも…うれしい…!
けんたろう「ま…魔王様…さみしかったです……」
魔王「ふふふ」
魔王の笑みは、闇夜に咲く黒百合のように妖艶。
二人の間には、不思議な甘い空気が流れた。
けんたろう「どちらへ…行ってたんですか?」
魔王「どこかの世界の“ハーゴソ”と名乗るやつが、世界を滅ぼすために余を呼び出しおってな」
「だから地上を焼き払ってやったわ。はっはっはっ!」
けんたろうは、心が真っ白になった。
(※物理的にも魔王の魔炎で焦げかけた)
魔王軍会議
議題:「スーパーの試食は、どこまで食べてよいか?」
ネフェリウス(司会)「人間どもの行動原理を理解するため、本日は“スーパーの試食”をテーマにするのである!」
ファイアイス「まず試食は燃やして滅菌すべき!」
一同「黙れ」
アスタロト将軍「試食は一回までと書いてあるが、“一回”とは何をもって一回とするのだ?」
デュランダル卿「皿ごと持って逃げたら、一回である!」
ネフェリウス「その理屈だと、店ごと持って帰っても“一回”ではないか!」
バルド「私は試食だけで三日間生活できたぞ」
ファイアイス「だから燃やせって!」
メモ係インプ「人間どもは、“今夜の夕飯”と偽りながら、実はその場で満腹になるまで食べている模様です!」
全員「人間…おそるべし…いや、滅ぼすべし!」
一方その頃、勇者一行
イタロマ国王に謁見中。
国王「金の王冠を、泥棒の堀木に盗まれてしまった。これを取り返せたら、真の勇者と認めよう!」
リリィ「ははっ!必ずや悪党を捕まえてまいります!」
仲間たち「さすが勇者様!」
城を後にして・・・
ミレルカ「勇者様、さすがです。やっぱり正義の血が流れてるんですね!」
リリィ「はぁ?金目の物、返すわけないじゃん」
仲間たち「えっ!?」
リリィ「別に認められなくても関係ないし。むしろ売れば現金だし」
仲間たち「勇者様…(震)」
この世に完璧なものが一つだけある…
それは――
リリィのゲスさだ!




