その40 愛と呪いとワープとギャンブル
◆ラブラブ(呪われ指輪)タイム
玉座の間。
魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世(呼吸三回必要)が、なにやら黒光りする小箱を持ってけんたろうに近づいてきた。
「けんたろう……これを受け取ってほしい」
ぱかっ。
中には、漆黒の輝きを放つ指輪。
「……これは……愛を感じます」
けんたろうの言葉に、魔王は嬉しそうに目を細める。
「これは魔王の指輪だ」
と、そこから始まるスペック紹介が異様に長い。
・一歩歩くごとにHP+10回復(※マラソン推奨)
・スペシャルパワー発動でパーティ全員HP全快(※使用回数無制限)
・ワープ機能搭載(※使用回数無制限)
・所持しているだけで攻撃魔法完全無効化、守備力大幅アップ
・毒・麻痺・レベルドレイン・クリティカルヒット防止
・そして最後に、呪われて外せない(※返品不可)
「……つ、つまり、これ……死ぬまで……」
「うむ、一生、私のものだ」
けんたろうの膝がガクガクと震えた音が、玉座の間にこだまする。
◆魔王軍飲み会(会議は酒場で)
魔界酒場「大ジョッ鬼」にて。
ネフェリウスと不死軍団長バルドが、対面でジョッキを傾けていた。
ネフェリウス「ハドうー様の管理能力は低いからな……降格があるかもしれんぞ?」
バルド「ネフェさん、それ言っちゃいます?」
ネフェ「ふぉっふぉっふぉっ。現実を見ろ、若造。うまく立ち回らんと出世に響くぞ」
バルド「俺は実力で上がりますよ」
ネフェ「実力だけで出世できると本気で思っておるのか?」
バルド「思ってますけど何か?」
ネフェ「……生意気じゃのう」
最初は笑っていた二人だったが、酒が進むと段々空気がピリピリし始める。
ネフェ「やはり若造は口ばかりじゃ」
バルド「年寄りは過去の栄光にすがってるだけですよ」
グラスがテーブルに叩きつけられる音。
周囲の魔物客、そっと帰り支度を始めた。
◆その頃の勇者(ゲスの休日)
その間、勇者リリィは――
仲間たち(ミレルカ、カティア、エル)は宿のベッドで夢の中。
リリィ「……さて、と」
目指すはモンスター闘技場。
入場料を払い、席に着くや否や、目が輝き始める。
「よーし……今日こそ大穴狙いだ!」
最初の試合、賭け金を倍にして突っ込む。
次の試合、さらに倍プッシュ。
財布の中身がどんどん消えていくが、リリィは止まらない。
今日もまた、世界を救う使命は後回し。
リリィの戦いは、モンスターとではなく己の金銭感覚との戦いであった。
「ゲスってなんだ? ためらわないことさ!」
――それが勇者の信条である。




