その4 世界は闇に落ちる
■ 魔王軍会議、エグい方向へ
「では次の議題――人間世界をどうやって屈服させるか、でありますな」
悪知恵魔導士ネフェリウスが、浮遊するスクリーン(水晶玉)を操作して、人間界の村の衛星画像みたいなものを映す。
(※異世界なのにハイテク)
魔王軍会議は、あくまでも進む。だが……
突然、けんたろうが手を上げた。
「……提案があります」
幹部たち、どよめく。
(え?またやるの?この前“毒水”の件でヒかれたのに?)
「ええと、子供をさらって人間を支配するってのは、どうでしょう?」
――沈黙。
そして、ざわっ……!!
悪魔たちがざわつく。あまりにも悪魔的。
というか、**ド直球で“悪魔のすること”**だった。
「お、おい……それは……」
「いくらなんでも……」
「やりすぎだろ!!」
幹部の一人、ザイオスががばっと立ち上がる。
「そんなの……ダメだ!!」
なんと、彼の目から大粒の涙がポロポロと……。
けんたろう、思わず言葉を失う。
(え?泣くの?誰が?この、裏世界の暗黒竜を斬った伝説の竜剣士が??)
ザイオスは声を震わせながら語り始めた。
「……私にも、息子がいた。人間界に……小さい頃、流れ星を見ながら約束したんだ。『また会おう』って……なのに……なのに……!」
うわああああああああああああああ!!!
玉座の間に、ザイオスの号泣がこだまする。
あの…怖すぎて誰も逆らえないと言われた魔王軍の剣士が、今――「婿どの〜〜〜!!(涙)」と泣き崩れていた。
■ 魔王軍、ざわつく
魔王も微妙な顔をしている。
隣に座るけんたろうは、冷や汗ダラダラ。
額にうっすら「謝」の文字が浮かんでる気がする。
「えーと……さすがにちょっと、やりすぎました……?」
ネフェリウス「いやー、これはさすがに…ねぇ…」
バルド「やっぱり人間って怖いよ……!」
デュランダル(頭を右手に持ちながら)「悪魔の方がまだ優しいって評判だよぉ?」
“さすが魔王の婿”という恐怖が、ジワジワと広がる魔王軍。
いまや彼は、「けんたろう様の機嫌を損ねると、何かしらのマッドな案をぶつけてくる」として一目置かれるようになっていた。
けんたろう(心の声):「……俺、ただの高校生なんだけど……?」
■ 一方そのころ、勇者リリィ
場面は変わり、人間界の町・アソアハソ近郊。
――**道具屋《ゴールドラッシュ店》**にて。
「はあ!?これは買い取れませんって言ってるでしょうが!!」
店主の初老の男性が、困り顔で叫ぶ。
勇者リリィは、手に金ピカの花瓶、純銀製の王家のティーポット、そして玉座の肘掛け(!)を抱えていた。
「え?これ全部、王城の宝物庫から持ってきたやつだよ?」
「裏でなんとか流せばいいでしょ?」
――ゲス!!
その美しい顔立ちと、堂々たる振る舞い、
一見すると高潔な騎士にしか見えない彼女だが、言ってることは完全にアウト。
「だってさ、アソアハソ王が50Gしかくれなかったんだよ?銅の剣も買えないって!これ世界を救う勇者に対する予算!?」
「それに、世界会議で決まったでしょ?『全世界は勇者に協力する』って!
……だったら、物的支援も協力のうちでしょ?あたし何も間違ってないよね?」
圧。
勇者の正論(?)に、店主はただうなずくしかなかった。
(……人間の世界の方が、魔王軍よりよっぽど怖いんじゃ?)
■ 魔界サイド・こっそり会話
会議後、けんたろうは魔王の隣で、お茶をすする。
「けんたろう、おぬし……真の悪魔になれる素質があるな」
魔王が意味深に微笑む。
けんたろう、ちょっとだけ震える。
「や、やっぱり、夜に寝てる方がいいんじゃないかなーって思ってるだけなんですけど……」