その37 航海・・・コロンブスの卵
魔王「けんたろう……船首に立て。わらわが後ろから抱きしめてやる」
けんたろう「いや沈むから!絶対沈むから!!」
船体はギシギシ、ネジが飛び、カモメまで逃げ出す。
魔王「沈んでも、わらわが海を割るから大丈夫じゃ♡」
そう言った瞬間、魔界の海がゴゴゴ……と真っ二つに裂け、クラーケンたちが「え?職場ごと消滅!?」と慌てて荷物をまとめだした。
リヴァイアサンは割れ目に落ちて「勤務中に解雇!?ブラック!!」と叫んで消えていった。
けんたろう「いやいやいや!!そんなノリで大陸を割らないで!?物理法則泣いてるから!!」
魔王「安心せい。愛ゆえのスケールじゃ♡氷山も、海も、ついでに隣の次元も割ってやる」
けんたろう「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
――世界が震撼するほどのスケールで、魔王はただ愛を語るだけだった。
◆魔王軍会議、血の人事
魔王「次のイツヌ制圧作戦には――バルド、お前を行かせる」
鎧を鳴らしながら立ち上がったバルドは、死んだ魚のような目を輝かせた(逆に怖い)。
「はっ、必ず成果を上げてまいりましょう。我が“不死軍団”をもって!」
場がざわつく。
ファイアイス「いや、お前人間だろ」
バルド「そうだが?」
ネフェリウス「人間が人間を恨んで不死軍団束ねるって、どういう設定だよ」
バルド「いやぁ、ほら…俺は悪魔に魂を売ったの!」
魔王「面接のときから思ってたが、お前の闇の方向性は面倒くさい」
◆その頃の勇者(HPゲージが虫の息)
一方その頃――勇者リリィ一行。
洞窟の奥でボロボロになっていた。
カティア心の声(さっき洞窟を抜けたとき、そのまま進んでれば……)
エル心の声(強欲すぎるんだよ、このゲス勇者が!)
仲間たちの心の声は、もはや怨嗟のコーラスだった。
ミレルカが叫ぶ。
「勇者様! そろそろ洞窟を抜けましょう! このままじゃHPが……!」
しかしリリィは壁にもたれ、目をギラギラさせていた。
「……薬草だ……」
カティアが顔を引きつらせる。
「もう持ち物にはないですよ!!」
「薬草を落とす敵がいただろ? そいつをピンポイントで狩って、薬草で回復すればいーじゃん!」
「ほら、まだまだ戦える♪」
全員「「「「「「んなわけねーだろ!!」」」」」
完全にゲスのコロンブスの卵。
いや、卵というより、この場合はゲスの腐った卵だった。




