その36 魔剣アルケラトスと熊を素手で倒す者たち、でも勇者は宝箱回収が最優先
玉座の間。
今日もけんたろうは魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の膝の横にちょこんと座らされ、よくわからない温もりと圧倒的威圧感の狭間でプルプル震えていた。
「……あの、魔王様」
「なぁに、けんたろう」
「勇者とか、攻めてこないんですか?」
恐る恐る聞く。答えによっては寿命が縮みそうだ。
魔王は涼しい顔で言った。
「何百年に一度かは、ここにたどり着くけど……大体その前で息絶えてるわ」
「こわいいいいいい!!!」
思わず立ち上がって悲鳴をあげるけんたろう。
「だって、人間なんかに負けないもの」
そう言うと、魔王は玉座の横に立てかけられた魔剣アルケラトスを片手で持ち上げ、ゆる〜く一振り。
剣から漏れ出した黒紫色の光が空気をねじ曲げ、床のタイルが勝手にひび割れた。
「こわいいいいいいいい!!!!!」
けんたろうは後ずさりながら、心の中で(俺、なんでこの人の隣に座ってるんだろう…)と猛烈に疑問を抱く。
~~川~~
その頃、魔王軍会議室。
クロコダイノレ出陣の話題が進んでいた。
「クロコダイノレは無事、勇者を討つだろうか…」
不安げな声が上がる。
クロコダイノレは、動物型のモンスター軍団を束ねる軍団長だ。
話はなぜか、動物から熊の話題になる。
「昔な、熊と戦ったことがある」ネフェリウスが語り始める。
「熊くらい、素手で倒せるぜええええ!」とファイアイスが即マウントを取る。
「俺は熊を飼っている」バルドが誇らしげに言う。
「それ、ただの動物好きだろ!!!」
会議室のザイオスが机を叩く音が響いた。
~~橋~~
一方その頃、勇者パーティは——。
暗く湿った洞窟を抜け、視界の先に光が差し込んだ瞬間、全員の顔に笑顔が広がった。
「やった!洞窟を抜けられた!」ミレルカが歓声をあげる。
「へへっ、魔物は強かったが、なんとかなったな!」カティアは剣を軽く回す。
「かなりやられたけど、街には辿り着けそうだね」エルが安堵の息を漏らす。
しかしその瞬間、リリィがくるっと踵を返した。
「引き返すぞ!」
全員「えっっ????」
リリィは真剣な表情で言った。
「まだ行ってない道があったから、宝箱とか見逃してるだろ!回収しに行くぞ!!」
「…………」
仲間たちは言葉を失った。体力ゲージは赤、薬草は残りゼロ。
しかし、彼女の目は完全に「宝箱>命」の輝きに支配されている。
今日も変わらず、ゲスの飽和状態!




