その35 純情魔王とゲス勇者の永久機関(※悪魔的タイトルだが、ゲスいのはやっぱり勇者だった)
俺は魔王と朝食中だった。
食事を運んでくる悪魔たちが怖い。
「婿は、セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?」
――突然、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世が僕に問いかけてきた。
「え?」
僕は反射的に聞き返した。
いや、だって意味が分からない。
「どうしたんですか?」
恐怖心を抑えつつ、僕は聞き返す。すると魔王様は少し頬を染めて、こう言った。
「少しでも……気を引きたい……純情な乙女心」
………………。
いやいやいやいや、魔王様、人間界征服をたくらむ暗黒の支配者ですよね?
何その「ちょっとかわいくアプローチしちゃったテヘ♡」みたいな空気感。
なんか今の、魔界の冷たい空気じゃなくて、乙女ゲーのイベント画面みたいになってましたけど?
いや、これってどっかのアイドルでしょ!!
僕は慌てて姿勢を正し、必死に答えた。
「魔王様はいつも美しいです……」
「本当に?」
「偽りはございません」
一瞬――ふわっと空気がやわらぐ。
僕と魔王様の視線が重なった。
初めて……初めて良い雰囲気になった気がする。
(※この後、僕が安心した隙に魔王様が「じゃあ今夜は添い寝だな」と言ってさらに恐怖するのは別の話)
そんな甘ったるい空気の裏側で、クロコダイノレは出陣準備の真っ最中だった。
そこへハドうーが走ってくる。
「クロコくん、ごめん……私がふがいないばっかりに……」
「仕える者のために命を出すのが武人です」
クロコダイノレの真剣な瞳に、ハドうーは泣き崩れる。
「勇者はガチで強いから……気を付けてね……!」
「お任せを」
(※なおこの時、クロコダイノレは内心「この人、戦場で泣きすぎでは?」と思っていたが黙っていた)
一方その頃、勇者リリィたちは――
「魔物が二匹だ!」
ツンデレ魔法使いエルが集団攻撃魔法・ヂラを詠唱!
光の閃光が魔物をつつみ、ドカーーーン!!
……あっさり魔物は全滅。
「たった二匹で集団攻撃呪文はもったいねーだろ!!」
勇者リリィがブチ切れた。
「そんなペースで魔法撃ってたら、宿屋に行く回数増えちゃうじゃん!うちら、そんなに甘くないからね!」
ゲスの永久機関!!




