その33 真の悪魔は?
魔王城の朝は、今日も血のように赤い朝日と、地獄の底から響く目覚ましベルの音で始まった。
けんたろうはその音で飛び起き――いや、半分は魔王の腕の中で捕まっていたため、逃げるように起き上がることができなかった。
「おはよう、けんたろう♡」
「お、おはようございます…(あ、この距離で笑顔向けられると、死ぬ前の走馬灯っぽい)」
魔王《ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世》は今日も絶好調。何が絶好調なのかは知らないが、彼女の目の輝きは、まるで「世界征服する日を心待ちにしている少女」のそれだった。
そして突然、魔王は言った。
「大事な婿の護衛をつけようと思ってな!」
けんたろうの頭の中に、瞬時に「護衛=筋肉ムキムキの頼れるお兄さん」像が浮かぶ。
が、現実はその2万倍くらいグロかった。
「――召喚!」
魔方陣が開き、そこから出てきたのは、目が8つで口が4つ、背中に生えてるのは多分腕、しかもその腕の先にさらに口。
明らかに大ボス級。
しかも自己紹介で「趣味は臓物収集です」とか言うタイプ。
「ど、どうも……」
「……お婿様ァァ、命に代えてもお守りしますうぅぅ……(舌で顔をぺろぺろ)」
「やめて! 舌だけで俺のライフ削らないで!」
けんたろうのSAN値は爆速で減っていく。
これが魔界式の愛情表現らしい。いや、聞いてないけど。
その頃、魔王軍の会議室では――
やたら豪華な玉座の間の隣にあるこの部屋、やたら広いのに椅子は全員分揃っていない。
会議テーブルの上にはなぜか肉まん、バナナ、爆弾、そして資料(血文字で「今日の議題」とだけ書いてある)。
魔王軍総司令官・ハドうーが、勇者戦での大怪我から復帰していた。
「本日から時短勤務で復帰します。今週は週3日勤務、定時前に上がります」
軍団長たちが拍手するが、手の数が多い魔物は拍手の音量がやたらうるさい。
議題1:人間界支配計画
幹部A「単純に物理で押し切るのはどうでしょう」
幹部B「いや、物流を断ち切るのも手だ」
幹部C「観光ビザの発行を制限しよう」
ここでけんたろうが手を挙げた。
「……あの、宗教どうですか?」
「宗教?」
「はい、魔王様を信仰対象にした宗教を人間界に流行らせて、信者に洗脳してもらえば……勝手に支配できます」
しーん。
全員の目がけんたろうに集中する。
幹部A(婿、こえー……)
幹部B(これ悪魔が考えることじゃねえのか……)
幹部C(悪魔を2周半回った人間だわ)
ハドうーが重々しく言った。
「これは……OKだね」
ざわ……ざわ……
(婿こえー! どっちが悪魔だ!?)
その頃の勇者パーティ。
次の目的地へ向かう途中、敵がどんどん強くなってきていた。
魔法使いエル「これ、次の町まで薬草足りる?」
リリィ「薬草使うのは、死ぬギリギリだからな?」
「えっ」
「残りHP1からが本番よ」
ゲスゲスファイヤー!!




