その3 ひれ伏せ!人間どもよ!
■ 魔王軍作戦会議、つづく
けんたろうは、魔王の隣で玉座の間の会議に参加していた。
(※椅子の脚がヤギの足になっているのが地味に怖い)
目の前には、先ほどの幹部たち――
・元人間の復讐剣士(名前:バルド)
・竜殺しの騎士(名前:ザイオス)
・悪知恵魔導士(名前:ネフェリウス)
そして、頭を手に持ったデュランダル卿。
魔王《ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世》も、当然ながら真顔で会議に参加中である。
場は厳粛――のはずだった。
「えーっと、僕の考えですけど、人間って夜に寝るので、夜に町とか村を襲えばよいと思います」
けんたろうが慎重に提案する。
我ながら、実に合理的。深夜のゲリラ戦。心理的なショックも大きい。
しかし――
「夜勤かぁ~、何匹集まるかなぁ~」と、ザイオス。
「うん、最近の若い魔族、夜はネット見て寝るからなぁ」と、バルド。
「夜勤は体にダメージが残るからね!腰やるよ、腰!」と、ネフェリウス。
「…………え?」
けんたろうは、ぽかんとする。
悪魔たちが、完全に労働基準法的な視点で戦争を語り始めたのだ。
「我が軍はね、月間労働時間を140時間以内に抑えてるんだよ」
「魔族にも心があるからね。最近は“燃え尽き症候群”ってやつが流行っててさ」
まさかのホワイト企業体質。
「いや、戦争しないといけないんじゃ…?」とけんたろう。
「うーん、そうなんだけどさぁ。**“戦争は9時5時で”**って労使協定がね」
「ブラックなのは、だいたい人間界だから!」
幹部たち、全員うなずく。
(おい、ホントに世界征服する気あるんかこの軍隊…)
■ 一方そのころ――アソアハソ王国
勇者の娘、リリア・セレナ・フェルミナ(通称:リリィ)。
その名はすでに「天の光が生んだ剣の申し子」とまで呼ばれる。
細身の体に、白銀のプレートアーマー。
腰に佩くのは聖なる短剣。
風にたなびく金の髪、冷たくも強い意志を宿す碧眼。
歩くだけで騎士が敬礼し、
馬が勝手に跪くレベルでカリスマに溢れていた。
彼女が入った王の間では、
アソアハソ王が高らかに宣言する。
「勇者リリィよ。魔王討伐の大義、汝に託す――。これを旅の支度金とせよ」
そして、出てきたのは――袋。
中には銀貨がじゃらじゃら……50G。
「……はぁ?」
その声、静かに…しかし致命的に怒っていた。
「たった50G?銅の剣も買えないじゃん。宿代とパンで終わりじゃん。え?相手魔王だよ?勝つ気ある?」
国王、戸惑う。宰相、目をそらす。騎士団長、壁と一体化。
「しかも、馬もボロいのじゃん!! 蹄ひび割れてんだけど!?」
「姫じゃなくて…旅芸人かよ!」
リリィは怒りのままに玉座を蹴り倒し、
壁に飾られたタペストリーを引き裂き、シャンデリアを落とし、
宝物庫の鍵を奪って、
金目の物を大体ポーチに突っ込んで出ていった。
「え、だってさ――世界会議で決まったでしょ?」
「『全世界は勇者に協力する』って。」
リリィはきょとんとした顔で言ったが、
その背後には、荒れ果てた王の間がそびえていた。