その20 魔王軍総司令官降臨(なのに勇者の方が性格真っ黒)
■ 魔王とけんたろう、ラブラブという名の恐怖劇場
――魔王の間。
けんたろうは、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世と並んで座っていた。距離、約7cm。
人間的には近いけど、魔王的には遠い。それがこの世界の愛の距離。
「けんたろう……結婚式の引き出物、悩むわね……」
「え、えっ!? まだ話まとまってないですよね!?(っていうか式、やる気満々!?)」
魔王は静かに頷きながら言う。
「やっぱり定番のカタログギフトかしら……?
地獄産くちなしの蜂蜜とか、冥府の大理石ティーカップセット……センスが問われるのよね、こういうのって」
「カ、カタログギフトってどこで知ったの!? 誰から!? ていうか冥府のティーカップって何!?」
魔王はやわらかく笑って、手元の冊子を取り出した。
それは――人間界・最新ブライダル事情 2025夏号。
「あなたのベッドの下から見つけたわ。とても参考になる内容だったわ」
「うわあああああああああ!!!!」
(なぜ見つけた!?なぜ読んだ!?ていうかそれ俺のじゃない可能性ない!?)
けんたろうの脳内では、鐘の音が鳴り響いていた。
――結婚式ではない。
それは、人間の限界を告げる、死亡フラグのゴングだった。
■ ソソザの村に嵐、来たる
場所は変わって、勇者リリィ一行――
ソソザの村、朝。目覚めとともに、ギリギリの命を回復した仲間たちが、
ほうほうの体で宿屋から出てきた。
エル(魔法使い)「…ああ…ベッドって…人権なんですね…」
ミレルカ(白魔導士)「……マットレスの硬さがちょうどよくて……泣けました……」
カティア(剣士)「……なんとか生きてる……でも足が棒……」
そんな仲間たちの会話を尻目に、リリィはパンをかじりながらご満悦だった。
「ふっ。昨日も稼いだわぁ~。雑魚狩りで金策して宿泊費浮かせて、今日は村の広場でバザー物色しよっと。
んで、ツボあったら割る!」
\ゲス!ゲス!ゲス!!/
だが、そのとき――
ゴロゴロォォォォン……!!!
曇天がにわかに暗くなり、空を切り裂くように漆黒の雷が轟いた。
空間が歪み、何かが“落ちて”くる。
ズンッ!!!
地響きと共に、漆黒の鎧を纏った男が村の広場に降臨した。
その姿を見て、まず反応したのは――リリィだった。
「……お前、普通の魔族じゃねぇな」
その瞳に宿る、獣のような感覚。勇者としての本能が警鐘を鳴らしていた。
■ 総司令官、名乗る。
漆黒の男が名乗りを上げた。
「……我は魔王軍総司令官――ハドうー!!
魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世様の命により、貴様ら勇者一行を――討滅する!!」
「ええええええ!?!?!?!?!?!?」
仲間たちの悲鳴が、ソソザの村の静寂を打ち破る。
カティア「ちょ、ちょっと待って!!魔王軍って……しかも、いきなり総司令官!?え?チュートリアルどこ行ったの!?雑魚戦とかないの!?」
エル「ねぇ!?私たち、スライム倒したばっかなんだけど!?まだステータスも見てないんだけど!?!?」
ミレルカ「えっ……あれ……魔王軍総司令官??えっ、ストレートに出てくるパターン!?!?!?」
■ 勇者リリィ、本気を見せる(でもゲス)
だが――リリィだけは、動じていなかった。
いや、確かにゲスである。
旅の仲間をしごきにしごき、宿泊費をケチり、アイテムはすべて自分が先取りする鬼畜女だが――
「……あんた、悪いけど、私の狩りセンサーがフルバーストよ。
初見だけど、殺る気は、私の方が上だから」
ギラリ、と抜いた剣が、広場の朝日に光を放つ。
その佇まい――
「……これが、勇者……?」
ハドうーは、思わず息を呑んだ。
確かに……性格はクズ。性根はゲス。しかし、その剣筋には本物の強者の気配があった。
リリィ、ニヤリと笑って――
「じゃ、始めよっか。魔王軍の大物幹部さん♪」




