その18 心臓が燃えても魂は凍る(勇者が一番やべぇ)
■ 魔王のラブは灼熱すぎてけんたろう蒸発寸前
魔王の間――
深紅のカーテンが揺れ、魔界の月が美しく窓から差し込む。
けんたろうは緊張でガッチガチ。横には、いつも通り笑顔が一番怖い女、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世。
「ねえ、けんたろう。私、あなたのお義母様とうまくやれるかしら……?」
「えっ」
「……ほら、よく聞くでしょう?
嫁いびりって……
あなたのお母様に、もしそんなことされたら――」
魔王、ニッコリ。
「――私、その場で灰にしちゃうから」
「やめてぇええええ!!」
「大丈夫よ。焼くのは一瞬。苦しまずに済むわ」
(そういう問題ではない)
けんたろう(この人、悪魔ってより人間関係爆弾だ……!!)
■ 会議、また会議、地獄より胃が痛い
地獄本部会議室――
今日も会議が始まる。議長は魔王軍総司令官ハドうー。
「それでは本日の議題……神の加護を受けし勇者の早期討伐について、です」
――ピリッとした空気が走る。
魔王様からの直々のご命令。みんな真剣……かと思いきや。
ザイオス「我が極・竜軍団にお任せを……!」(かっこいい)
ネフェリウス「わしの禁呪・百万夢想・千劫の幻界迷宮で……」(説明長い)
バルド「総司令官殿……我が不死軍団こそ、真にこの任務に相応しい」
ファイアイス「ヒャッハー!!街ごと焼くぞぉおおお!勇者?知らねぇ!全部灰だァ!!」
クロコダイノレ「私に一任いただければ、静かに、確実に――」
――会議、まとまらない!!
ハドうー(あれ、これ俺の仕事……だよね?)
みんなの視線が次第にハドうーに集まってくる。
(……またこの流れだ)
「会議がまとまらないのは……総司令官が頼りないからでは?」
(言った!!)
「判断を即座に下せばいいのに……」
「派閥づくりとか、そういうの、もう古いっていうか……」
(言ってるぅぅぅぅ!!!)
ハドうー(胸が……胸が痛い……)
「俺……魔族だよ?心臓2個あるけど……それでも痛いんだよぉお……!!」
最終的に――
「もういい!!俺が行く!!勇者を討ってくる!!」
ファイアイス「よっしゃー!街ごと灰にしてやるぜ!!俺も連れてけぇえ!!」
「お前は来るな!!!」
■ 勇者リリィ、キャンプで人道的限界突破
その頃――草原にて。
空には星が瞬き、小さな焚火がぽつり。
その周りに集まる勇者リリィ一行。
カティア(剣士)「……もう無理……手が震える……」
エル(魔法使い)「私、火球すらまともに打てません……」
ミレルカ(白魔導士)「田舎のお母さん……わたし、もう帰れない……」
勇者リリィ、仁王立ち。
「何?それくらいで音を上げるの?」
「今日は村の宿に泊まれるんじゃ……」
「戦ってギリギリまで瀕死になってからじゃないと泊まらない主義なの。
その方がコスパいいし、何より緊張感があるじゃん?」
「……そんな主義、聞いたことない……」
「第一、宿代がもったいないでしょ?
その分、私の装備が充実するってことよ。はい、みんなのため♡」
\\ゲスの極みィィィイ!!//
一同(これはもう……魔王じゃなくて、悪夢……)




