その14 闇の契約書にサインは不要(経費は自己負担)
■ 魔王からのラブコール(震え声)
けんたろうは今日も、魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の隣にいた。
場所は――魔王の寝室。いや、正確には血の香の間と呼ばれる部屋である。
「……ねぇ、けんたろう」
「は、はいっ……!」(いつもの10倍緊張している)
魔王はとろんとした目で、けんたろうの肩に指をのせる。
「お前の血が……ね、私を落ち着かせるのよ……。
ほんのり鉄の匂いが混じった、人間独特のその温もり……」
「え、あ、はい、えっと……良い血で、すみません……?」
「もしもお前が死んだら、その肉体を永久保存して、毎晩語りかけるわ。
『これは私の愛しい婿、彼の静かな魂は今もこの城に』……って♡」
「…………」
(怖い!!!)
けんたろうは、背筋を凍らせながらそっとコーラを一口。
シュワっと炭酸が、唯一の現実世界だった。
■ 魔王軍会議:ハドうー、デスクの闇に沈む
会場:地獄文書管理局・会議室「絶望の果て」
今日の議題は、魔王軍兵站部の再編成。
例によって、総司令官・ハドうーが司会進行……のはずだった。
「……えっと、この書類……えー……補給路の再計画、これは誰か通しましたっけ?」
幹部たち(またグダってる……)
リザードマン幹部・クロコダイノレ(資料をすっと差し出す)
「ハドうー様、こちらに再計画案まとめてあります」
ハドうー「あっ、あ、ありがとうクロコくん……ほんと助かるわ……」
(なんで俺、毎回この人に頭下げてるんだろ・・・)
幹部A「ハドうー様、現場に出てたときのが生き生きしてたよな……」
幹部B「会議より、剣振ってた方が映えるんだよ」
幹部C「出世って、こう……魂を削るよね……」
ハドうー、ポツリとつぶやく。
「出世は……嬉しかったんだけどさ。
なんか、同じ会社の別部署に異動してきた新人みたいな感じなんだよね……」
けんたろう(この世界の社畜って……悪魔も人間も変わらないのか)
■ 一方そのころ:薬草?贅沢だよ?
アソアハソ近郊の村にて。
勇者リリィと仲間たちは、道具屋にて回復アイテムの補充中。
店主「薬草一束、80Gでございます」
エル(白魔導士)「わ、わたしは最低3つ欲しいかなぁ……」
カティア(女剣士)「前の戦いで消耗してるし、私も……」
リリィ、財布を取り出す。
ガチャッ。金貨がぎっしり。
しかし――
「ダメ。買わない」
仲間「え?」
リリィ「消耗品は、最低限。無駄に使う癖がつくと、いざというとき足りなくなる」
エル「え、でも、傷が……」
リリィ「使うのは、誰かが死にそうになった時だけ。
それ以外は、根性で乗り切る」
カティア「それで死んだらどうするの……?」
リリィ「死んだら、次に出会う仲間を探すまで。
ね?効率的でしょ?」
\\\ ゲスゥゥゥ!!! ///
仲間たち:
(魔王より、こっちの方が支配者じゃない……?)
(私たち……買い切り契約だったの……?)




