その12 邪悪の使者
■ 魔王の愛、ちょっとズレてる
けんたろうは玉座の間で、静かに魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の話を聞いていた。
魔王は目を細め、艶やかに笑う。
「けんたろう、お前のために……新たな処刑方法を考案した」
「へ!?なんで俺のために!?どういう愛情表現!?」
「“魂を数回抜き出しては戻す”のよ。苦しませすぎず、深い苦悶を与える優しさ――わかるかしら?」
「こわいこわいこわい!!!」
(※まるでプレゼントでも贈ってくるような口調やめてくれ!!!)
だが、魔王は満足そうに笑いながら、紅茶を一口。
「愛しているからこそ、苦しみを知っていてほしいの。私の世界では……それが常識よ?」
(常識こわっ……魔界のラブとは……)
けんたろうの心は、今日もまたひとつ魔界に染まっていく。
■ 魔王軍会議:地獄のパワーバランス
場所:魔王城 地下666階 会議室【奈落】
会議の議題:「人間界への次なる侵攻戦略について」
登場――魔王軍総司令官:ハドうー
どよめく会場!
ハドうー!魔王軍において魔王に次ぐ実力と権限を持つ男!
「――我が軍は、北方の“フェリジア王国”を包囲し、四方を魔導障壁で囲む」
「おお……さすが総司令官……」
が、その横で伝説の竜剣士・ザイオスは腕を組み、うなずいていた。
(うわぁ、あのザイオスさん、何気に“裏世界の暗黒竜”倒してるし……
魔王様直々にスカウトされた実力者だし……)
――ハドうー、内心ではビクビク。
(正直、あいつの方がオーラもあるし、部下にも人気あるし……
俺、立場ある?……俺、いつまで総司令官でいられるの?)
ハドうー、額に冷や汗。
「……ええい、ザイオスよ!お前は……西の砦の視察にでも行け!」
ザイオスは静かにうなずく。
「命令とあらば」
(めっちゃ忠誠ある!!やりづらいぃぃ!!)
周りの幹部たち、ヒソヒソ。
「ハドうー様……ちょっと小物感が……」
「いや、立場的には一番なんだけど……」
「ザイオスさん、いるだけでなんか安心するんだよな……」
「部下人気、完全に逆転してる……」
\\\ 地獄の社内政治、開幕ッ! ///
■ 一方、勇者リリィは・・・
城下町の武器屋。
鋼の剣、ミスリルの鎧、最高級の冒険者セットがズラリ。
リリィは堂々と、買い漁っていた。
「この剣、私に似合うでしょ?見た目大事なの。
この防具、ちょっと胸が盛れるタイプね。これも頂戴」
後ろでは仲間の剣士カティア、魔法使いエル、白魔導士ミレルカがぽつり。
「勇者様、私たちの装備は……?」
リリィは鼻で笑った。
「あんたたちの?基本、拾い物でやってくから。
旅してるとツボとか宝箱とかで装備出てくるでしょ?
リユース&リサイクル!SDGsって知ってる?」
ミレルカ「ひ、ひどいです……!」
カティア「こいつ、やっぱ魔王より悪じゃねぇか……」
リリィ「ん?なにか言った?装備欲しかったら、命張って、魔物からドロップ狙えよ♡」
仲間たち、絶句。
「鬼!外道!」
「勇者って名乗るの、やめてくれませんか……!?」
■ 村人たちの悲鳴(と読者の声)
「えっ、魔王の方がよっぽど人道的じゃない……?」
「この世界で一番悪魔なの、勇者だよな……」




