表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/118

その101 魔王、ブチ切れる

◆邪神軍・虚無の牢獄


「……そう。おまえは、あの女の元へ帰ると言うのね」


 邪神姫アザトース=アポフィス=ド・ティラミス=ラグナロク=ペルセポネ=あんみつ九世(いい加減にしてほしい長さ)は、静かに目を伏せた。

 そして、次の瞬間、その瞳に底知れぬ独占欲の炎を宿らせる。


「ならば、力ずくで奪うまでよ」


「魔王軍をこの手で完全に壊滅させ、おまえが私しか選べない状況にしてあげる」


「そのために、我が切り札を呼び覚ますわ」


 邪神姫が指を鳴らすと、空間が裂け、冒涜的な幾何学模様のゲートが出現した。

 その先は、狂気と混沌が渦巻く、別次元。


「待っていなさい、けんたろう。偉大なる邪神クトゥルーの力で、すべてを終わらせてあげるから」


 そう言い残し、彼女は次元の彼方へと姿を消した。



◆邪神軍本拠地:神殿最奥・玉座の間


「はぁっ……はぁっ……!」


 黒騎士ヴェリタスは、たった一人で邪神軍幹部4人の猛攻をさばいていた。

 アーリマンの拳、エキドナの呪い、パズスの風化魔法、ニャルラトホテプの奇襲。

 それらすべてを、漆黒の大盾「ダークイージスシルド」で防ぎきる。


「ぐっ……!」


 ついにヴェリタスは片膝をついた。

 その姿を見て、後方で傷を癒していたハドうーたちが叫ぶ。


「ヴェリタス!」

「無茶だ! 一人では持ちこたえられん!」


「……来るな」


 ヴェリタスは、仲間たちを振り返らず、絞り出すように言った。


「私が……私がここで倒れれば、魔王様への忠誠が偽りとなる……!」


「それだけは……断じて、ならんッ!!」


 彼は信仰の力だけで再び立ち上がり、震える腕で盾を構え直した。

 だが、その体は、すで限界に達していた。


 しかし、攻撃を防ぐたびに、盾から伝わる衝撃が彼の体を蝕んでいく。

 防戦一方。圧倒的に、後手に回っていた。


「いつまで持つかな、その盾も」

 ニャルラトホテプが、楽しそうに呟いた。



◆勇者一行:船上にて


「ねえ、ミレルカ。その『伝説の聖剣エクスカリバーガー』って、どんな武器なの?」


 カティアの問いに、ミレルカは古い書物を開いて説明を始めた。


「はい! なんでも、古代の神々が作ったと言われる聖剣でして……」


「決して刃こぼれしない『聖なるパティ』と、あらゆる邪気を払う『秘伝のピクルス』、そして持ち主に無限の力を与えるという『伝説のチーズ』が挟まっているそうです!」


「……それ、ただのハンバーガーじゃない?」

 エルが冷静にツッコむ。


 しかし、リリィの目は爛々と輝いていた。


「すごいじゃない! 伝説の武器よ!」


「手に入れたら、まず分解して、パティ、ピクルス、チーズ、バンズ……パーツごとにオークションにかけるわ!」


「その方が、絶対に高く売れる!」


 そのあまりに罰当たりな発想に、仲間たちの魂が叫んだ。


「「「伝説の武器をバラバラにすんなーーーっ!!!」」」


 リリィは高らかにゲスの格言を叫んだ。

「完成品より、希少な素材の方が価値は高い!

 これぞ勇者の資産分割術よ!」



◆魔王様、静寂の終わり


 魔界王宮《メフィス・ヘレニア・ダークネス・クレプスキュール宮殿》。


 石像のように固まっていた魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の唇が、わずかに動いた。


「……けんたろう……」


 最初は、か細い囁き。

 だが、それは次第に、狂気を帯びた怨念の呟きへと変わっていく。


「けんたろう……けんたろうけんたろうけんたろうけんたろうけんたろう……」


 ザイオス、ネフェリウス、アスタロトが、その異様な光景に息をのむ。


 次の瞬間。


 カッ!!!


 魔王の瞳が、血のように赤く輝いた。

 静寂は破られた。

 ショックで停止していた思考が、純粋な、ただ一つの目的のために再起動する。


「私の……婿に……」


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 魔王の体から、魔界そのものを揺るがすほどの、凄まじい魔力が噴き出した。

 それは、今まで見せたことのない、純度100%の破壊の意思。


「よくも……よくも、婿に、手を出してくれたな……ッ!!」


 魔王は玉座を蹴り飛ばすと、自らの手で空間をズタズタに引き裂いた。

 その先に見えるのは、邪神軍の本拠地。


「魔王様! お待ちください! 単身では危険です!」

 ザイオスが叫ぶ。


 だが、魔王は振り返らない。

 彼女の脳裏には、けんたろうとの愛しい(と彼女が思っている)日々の記憶が駆け巡っていた。


(魔剣でのケーキ入刀を、あんなに喜んでくれたけんたろう……!)


(私の手料理(元・裏切り者)を、涙を流して感激してくれたけんたろう……!)


(私のために、銀河を平らにする計画を、あんなにも楽しみにしてくれていたけんたろう……!)


(そのすべてを……!)


「よくも、私の宝物を、奪ってくれたな……ッ!!」


「邪神軍、皆殺しだ」


 その一言を残し、彼女は愛と怒りの炎の塊となって、次元の裂け目へと飛び込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ