その10 恐怖と純情とゲスの正義
■ 魔王城の回廊にて
魔王ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世の玉座の間。
けんたろうは、あいかわらず片手に冷えたコーラを握りしめていた。
廊下を歩いていると、ふと現れたのは――
全裸の悪魔、サッキュバスのリリス。
妖艶な微笑みでゆらりと近づき、甘い声で言った。
「やぁ、かわいい高校生。疲れてるなら、ちょっと一息入れていかない?」
けんたろうは思わず目が釘付けに。
「うわっ……刺激、強すぎる……!」
高校生の心が乙女になりかけるが、すぐ正気を取り戻す。
「そ、それにしても……かわいい、けど怖いよ……」
その時、背後から冷たい空気が漂う。
「ふん……」と魔王の低くて尊大な声。
ディアボルが現れた。
「リリス、私の婿の前で何をしている」
リリスはにっこり笑い、魔王を挑発する。
「わかってるわよ、魔王様。けんたろう様が気になるだけ。少しは焼きもちを焼いたら?」
魔王は顔を赤くしつつも、声は静か。
「お前は悪魔かもしれぬが、私の婿の心を揺らすのは許さぬ」
けんたろうは内心、どきどき。
「怖いけど、美しい……まさに魔王だ……!」
言葉遣いに細心の注意を払いながら、けんたろうはそっと答えた。
「魔王様、その……いつもご指導ありがとうございます」
魔王はちょっとデレて、すっと手を伸ばし――
「コーラは冷えているか?」
けんたろう「は、はい!いつも冷えてます!」
魔王は満足そうに微笑み、そっとけんたろうの肩に手を置いた。
■ 一方、勇者の面接会場にて:熱血女剣士、登場!
アソアハソの城下町酒場。
リリィはまた面接の真っ最中。
今回現れたのは――
真っ赤な鎧を身にまとい、目がギラギラした熱血漢、女剣士カティア・ブレイズ。
「私はカティア!悪は絶対に許さねぇ!お前ら全員、ぶっ飛ばしてやる!」
リリィは眉をひそめる。
「熱血?正義?そんなの絵空事よ。ここは金のために生きる世界」
カティアはムッとしながらも食い下がる。
「それでも私は、仲間のために戦うんだ!」
リリィは少しだけ目を細めてから、鋭く言い放つ。
「じゃあ……お前、仲間の命を守るために自分が盾になる覚悟ある?」
カティアは力強くうなずく。
「あるに決まってる!」
リリィは少し笑い、
「なら、合格よ。今度こそ、使える奴が来たかもしれないわね」
カティアはほっとした表情を浮かべ、仲間入りが決まった。
■ 面接後の酒場の噂
酒場の連中がささやく。
「あの勇者、何度もヒドいこと言うけど、今回は本気っぽいな」
「熱血は熱血だけど、あの剣士、覚悟が違うぜ」
「やっぱり勇者、ただのゲスじゃなかった……?」




