その1 魔王降臨
俺の名前は――けんたろう。
ごく平凡な高校生。今日、16歳の誕生日を迎えた。
祝われる予定は特になし。友達は少なめ、彼女なんて都市伝説。
いつも通りの下校途中。スーパーでコーラ(特売98円)を買って飲みながら帰ってたんだ。
そのとき、空が裂けた。
――そう、マジで裂けた。
パカッて。パカッて何?って言われても、パカッとしか形容できない裂け方だったんだ。
黒い穴が、グォン…って空間ごと歪んで、なんか…ほら、動画編集で"ワープエフェクト"入れる時のアレみたいな。
そして、
「ハハハハハハハハ!! 時は来たれりィ!!」
みたいなことを叫びながら、翼の生えた筋肉隆々の悪魔――そう、ゲームに出てくる“グレーターデーモン”的なモノが、
俺の脇をガシッと掴んで、上空にシュパァァァァァァン!!!
「あっ、コーラぁぁぁあ!!」
バシャァッ!!(←地面に落ちる音)
そして俺は、異世界へと誘われた。
■ 魔界王宮《メフィス・ヘレニア・ダークネス・クレプスキュール宮殿》
…気がついたとき、
俺は玉座の間に寝かされていた。冷たい黒曜石の床に直寝だ。
遠くから聞こえてくるのは、鈍く響くパイプオルガンのような音。蝋燭が浮かぶように宙を舞い、空間全体がゴシックめいている。
そして。
玉座に、
「美しい」の一語では済まされない、途方もない美女が座っていた。
漆黒のドレス。
ルビーのような瞳。
白銀の髪がまるで星雲のように揺れている。
その唇が、俺に向かって――
「余が魔王、《ディアボル=ネーメシア=アークトリウス=イレイザ=ヴァルハラ=トラジディア十三世》である」
「えっ…名前、もう一回いいっすか?」
「……ディアボル=ネーメシア=アークトリ――」
「あ、いえ、大丈夫です」
つい、ツッコんでしまった。
だって、真面目な声で長すぎる名前を言われたら、誰でも笑うって。
でも魔王は表情一つ変えない。
「おぬしは、我が婿となる者……魔界千年の予言に記された存在だ」
そう言って、彼女は厳かに手をかざした。
その手に現れたのは、一冊の書物。
「《ルグナ=アーカ・ノストラム=黙示の書》…通称『禁書』である」
「なにその厨二病みたいなタイトル…」
「そこに、こう記されている。『現世の者、16歳にしてコーラを携えし者、魔王の伴侶と成るべし』」
「俺、コーラで運命決まった!?」
■ 魔王の側近:デュランダル卿
そのとき、玉座の脇から「ズルッ」という音がして、
影の中から一人(?)の男が現れた。
「お初にお目にかかります。我が名は、側近デュランダル。貴殿の婚姻を補佐する者でございます」
……頭がない。
いや、正確には右手に自分の頭を持ってる。
しかも、その頭が勝手に喋るんだ。
「どーもー、はじめましてー、頭部です☆」
「えっ、どこから声出てんの?」
「ノリで生きてます」
「怖いしウザい!!!」
■ 婚約成立…!?
「そもそも、なんで俺なんですか?」
真面目な俺は、ちゃんと確認する。
「魔界の暦『ダークネス・エクリプスⅦ暦』によれば、貴様の魂波動は我と最も相性が良く、しかも16歳の誕生日に転移する…」
「魂波動って何!?量子力学なの!?」
「婿として迎える。異論は認めぬ」
魔王様、言い切りやがった。
でも、こんな美女に求婚されたら、男として断る理由がない。
俺は思った。
(たぶん、もう帰れないし…これはこれで、アリか?)
「……えっと、じゃあ、お手柔らかにお願いします」
こうして、俺の魔王の婿ライフが始まった。
■ アソアハソ王国、勇者の娘
その頃――
人間界のアソアハソ王国。
「起きなさい、娘や……」
母親の優しい声が、少女の耳元で響いた。
16歳の誕生日。
少女は目覚める。金髪碧眼の、生まれながらにして神の加護を受けた存在。
彼女の名前は――まだ、語られない。
・・・
・・
・
だって次回だからね!!!