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9 晩餐


晩餐会の始まりは、確かに祝福の空気を帯びていた。

広間に足を踏み入れた瞬間、灯火は柔らかく、白い壁面に反射する光は人の顔色をよく見せる角度で設えられており、音楽もまた、拍を強調しない緩やかな旋律で、ここに集められた人間が皆、同じ夜を共有しているかのような錯覚を与えていた。


「よくぞやってくれた」

「若いのに見事だ」

「勇気ある判断だった」


声はまだ、個人に向けられていた。

呼びかけは名を伴い、視線は正面から交わされ、杯を掲げる腕もまた、等しい高さにあった。


オルはその中心から一歩外れた位置で、深く頭を下げ、差し出された言葉を受け取りながら、自分が今この場にいる理由が、確かに「一人の人間の行為」によって生じたものであることを疑っていなかった。

料理が運ばれ、温かな香りが卓を満たすころまでは、祝賀とはこういうものなのだろうと、どこかで安堵すらしていた。


だが、時間は静かに傾き始める。


最初に変わったのは、声の向きだった。

称賛は依然として投げかけられているのに、それがオルを「見た上で」発せられているのか、それとも出来事そのものへ向けられているのかが、判然としなくなる。

名は省略され、「今回の件」「あの判断」「あの場面」と、主語が抽象へと置き換わり、杯を掲げる腕の高さも、わずかに上下の差を帯び始める。


席順が、それを決定的にした。

オルの席は卓の中央ではなく、末席に近い位置であり、そこからは会話の中心がわずかに遠い。

誰もそれを説明しない。

説明されないからこそ、それは規則として完成していた。


政治家が語り始める。

声量は変わらないが、言葉の粒度が変わる。

暗殺未遂は「事件」となり、「事件」は「象徴」となり、「象徴」は「再編の必要性」へと変換されていく。


「不安定要素は、必ず連鎖する」

「市民は安全を求める」

「安全は、示されなければならない」


資本家がそれに頷き、口元だけで微笑む。

「示すには、資金が要る」

「資金には、理由が要る」

「今回の件は、良い理由になる」


その言葉は、誰かを傷つけるためのものではなく、あまりにも整然としているがゆえに、オルは反論の形を見つけられない。

彼の体験した恐怖や判断は、ここではすでに「正当性の原材料」にまで分解され、再利用可能な状態へと整えられていた。


彼に問いが投げられる。

「現場にいた君から見て、警備体制の穴はどこだったか」

それは意見を求めているようでいて、実際には確認であり、彼が答えた瞬間、その答えは彼の手を離れる。


オルは気づく。

自分は立って話していない。

他の者は、必要に応じて立ち、卓を回り、互いの背に手を置くが、彼には誰もそれをしない。

触れられないという事実が、ここでの距離を最も雄弁に語っていた。


視線を上げると、向こう側にナージャがいる。

彼女もまた、この会話の渦の外縁に立ち、言葉を挟むことなく、ただ状況を見ている。

一瞬だけ目が合い、互いに表情を確かめ合うが、そこに安堵はない。

むしろ「理解してしまった者同士」の沈黙が、確かに存在していた。


料理はすでに冷め始めている。

だが誰もそれを気にしない。

食事は目的ではなく、場を構成する装置に過ぎなかった。


「若者には、いずれ然るべき位置が与えられるだろう」

貴族がそう言うとき、その声には善意が含まれている。

だが同時に、それは今この瞬間、彼が「然るべき位置にはいない」ことの確認でもあった。


オルは笑みを作り、頭を下げる。

この場で求められているのは反抗ではなく、適切な応答だからだ。

だが胸の奥で、奇妙な冷えが広がっていく。

英雄として称えられながら、同時に「ここに属さない存在」であることを、ここまで明瞭に示されるとは思っていなかった。


拍手が起こる。

音は大きく、整っている。

それは祝福の音であり、同時に、この場の秩序が何事もなく維持されたことを祝う音でもあった。


オルはその拍手の中で、初めてはっきりと理解する。

自分が救ったのは、一人の命ではなく、仕組みそのものだったのだと。


席を立つとき、ナージャと再び視線が交わる。

言葉は不要だった。

この夜が、ただの祝賀では終わらないことを、二人ともすでに知っていたからだ。


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