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4 蠢く者たち
エピソード3の続きです。だいぶ短いです
それから少し後。
静まり返った事務所の裏手、古い屋根瓦の影から、誰かがそっと様子をうかがっていた。
黒い外套をまとい、顔を布で覆った影が、老人の離れたすきを見計らって扉をこじ開ける。
室内の灯りはすでに消えていたが、木箱の隙間から――それはまだ、そこにあった。
封筒を取り出した影は、指先だけで封を慎重に開け、中身をちらと覗き込む。
紙は薄く、折り目が多いが、中央に記された印は――三葉と星。
影はそれを見て、一瞬だけ動きを止めた。
そして、ごく小さく、笑った。
「やはり……動いたか。『あの家』が」
封を元通りに戻すと、影は静かに姿を消した。
誰にも気づかれぬまま、風のように。