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異世界のお金事情

 狼を何とか倒した俺らは、いつもの酒場に帰っていた。

 素材とか剥ぎ取って売っても良いらしいのだが、今回は疲れ切っていたため断念。俺の足は妙に重かった。戦いの緊張が抜けたせいか、今さらどっと疲れが押し寄せてくる。

 通りを歩く人々の表情はのんびりしているのに、俺はずっしりと重い荷物を背負っている気分だった。実際、荷物は変わらないはずなのに、やけに腕が重い。詳しい時間は分からないが、行く時には朝だったはずなのに、気づけば太陽は空の真ん中で輝いている。

 影は短くなり、じりじりとした熱が肌にまとわりつく。


「もうこんな時間か……」


 戦闘の余韻を引きずりながら、俺は天を仰いだ。森でも休んでいたのが原因か、時間経過が早く感じる。

 ミーナもまた、さっきまでの戦闘時の張り詰めた空気が抜けたのか、先ほどから伸びを何回かしている。

 

「というかこれ、何も倒したっていう証拠無くない?」

 

 町の門番に会釈をしながら俺はミーナに尋ねる。


「一種の契約魔法だからね。ギルドの依頼っていうのも」

「契約魔法?それって、俺がこの世界に呼ばれたのと同じ?」

「似たようなものかな。仲介金をもって依頼人、ギルド、冒険者の間で契約を交わす。それで依頼に成功した場合は自動的に通知がいくって訳」

 

 へー、なるほど。遠隔的な通信技術はなさそうだけど、そういう魔法で補っているって事か……ん?ちょっと待て。


「それって結局依頼をこなしたかどうかは分からなくないか?何をもって成功とみなされるんだ?それに逃げられたらどうするんだ?」

「逃げられたらさすがに失敗だろうけど……そこまでは分かんないや」


 結んだ髪を揺らして首を振るミーナ。まあそりゃそうか、俺もスマホとかがどうなってるかとかは知らないもんな。

 ミーナが俺のステータスを表示させる。依頼状況のところに【依頼完了】の文字が現れているのがわかる。


「ほらね、大丈夫でしょ?」


 ミーナは自信ありげに笑う。なるほど、こういう仕組みか。

 酒場の前に着くと、昼間なのにすでに酔っ払いの笑い声が聞こえてくる。元気だな、こいつら……

 扉を開けると(わかっちゃいるけど)店の中は昼間から賑やかだった。酒の香りと、香ばしい肉の焼ける匂いが充満している。


「お疲れ様です。依頼完了ですね」

 

 俺たちはギルド用の窓口に足を運び、依頼達成を報告する。店内の喧騒に音がかき消されてやや声が聞きづらい。

 ミーナが窓口の受付嬢さんから銀貨を数枚受け取り、半分を俺に渡す。

 

「ほらハルキ、契約通り半分こね」

「ああ、サンキュー」

 

 異世界で初めて手に入れた給料。初めは全て任せる気でいたけど、なんだかんだ俺も戦ったし、これは受け取る権利あるだろうな。

 俺の人生で初めて、労働の対価が紙じゃなくて金属だった件。そんなこと思いながら手のひらに乗せた銀貨は思ったよりずっしりしていて、ひんやりと冷たい。これが異世界での初給料か……。 


「ご飯食べていきます?」

「そうしようかな、ハルキは?」

「あ、ああ。そうする」


 聞かれたところで他に行くところも無いし。


「そうそう、昨日は初めてだったから払ったけど、今日からは自分の分はよろしくね?」

「そういや言ってたな……」

 

 聞かれた理由はそういう事か。さっき渡された銀貨3枚、それが俺の今の全財産。これでまた次の依頼までやりくりをしないといけない。

「昨日ミーナが頼んでいたのはいくらだ?」

「銀貨1枚」

「三分の一か……貨幣の価値ってどれくらいなんだ?」

「銀貨一枚で普通の食事3回分くらいかな」

「三食分?じゃあ日本円なら2,000円弱くらいか」


 円って何?と首を傾げるミーナを無視して俺は話を続ける。


「この依頼表にのっている金貨は?」

「銀貨100枚分。ちなみに銀貨は銅貨100枚分ね」

 

 なるほど、そうするとざっくり整理するとこうなわけだ。

 銅貨:5円

 銀貨:500円

 金貨:50,000円


「えっ、じゃあ俺って今1,500円?」

「だから円って何?」


 依頼毎日やらないと生活できねえじゃねえか!!貯金もなし、社会保障もなし、これが俺の全財産。ヤバすぎる。

 

「つまり俺はバイトの中でバイトをやって生活をしないといけないってことかよ」

「それも言ったじゃん」

 

 ミーナはあっけらかんとした表情で、俺の悩みをよそに銀貨を軽く弾いて遊んでいる。

 俺の生活が掛かっているってのにこいつは……


「……労基とか組合とか無いのか?」

「ろーき?は知らないけど、組合はあるじゃん。ね?」

 

 ミーナが言葉を投げかけると、「ギルド、すなわち組合ですね」とアリサと名札の付いた受付嬢さんが返事をする。そういえばずっと窓口の前だっけ。


「あの、お食事の事でしたら、多少冒険者様には支給されますよ?」

「ほんとですか!?」


渡りに船、それならやっていけるかもしれない。


「パンとスープだけだけどね」

 

 ぼそっと言うミーナ。アリサさんを見ると気まずそうに微笑むだけ。くそ、異世界、世知辛い闇バイトだ……


一応次回からは三日毎投稿にする予定です。

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