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3/10

一応勇者なのでそこそこ強い

 とりあえず色々説明するから付いてきて!と言われ、教会から外に出た俺の目に映ったのは、まさに異世界としか言いようの無い光景だった。

 石畳の道が続き、左右にはレンガや木で作られた家並みが立ち並んでいる。どの建物も屋根は三角形、なんの意味があるのか、色とりどりの布が窓辺にかかっていた。

 小高い丘にはここら辺のとは違う立派な家が並んでいる。さらにその中心にはひときわ目立つ大きな館がそびえ立っており、貴族が住む地域であることがうかがえる。


「どうしたの?行くよ?」

 

 呆然としていた俺に、ミーナが声をかける。


「お、おう」


 返事をした俺は歩みを進める。


 「つーか俺裸足なんだけど」

 「後で靴も渡すから。我慢我慢」


 我慢できるものでもない気もするが……まあ、街並みに視線を戻す。道の真ん中には水路が流れ、小さな橋がいくつもかかっており、子供たちが橋の上から水面を覗き込み、手を伸ばして遊んでいる。

 また、違うところからは走り回り、大人に怒られる子供の声がする。

 子供も多い、平和だな。と、のんきに思ったところでバイトの内容を思い出す。


 「ハルキのいた世界はこうじゃないの?」

 「人から道まで違うな」

 「ふーん、魔法とか無いの?」

 「魔法、魔法あるのかこの世界?」

 

 あるよ、と言ったミーナが指を指した先には、宙に浮くランプや、箒が並んだ店があり、ローブを着た少年が興味深そうに眺めている。

 うーん、異世界、か。魔法まであるのか。

 魔法道具屋を皮切りに、市場の通りに入ったらしく、屋台や露店で通りが埋め尽くされている。色とりどりの果物や野菜が山のように積まれている横には、赤や黄色の香辛料らしき粉が袋に詰められ、異国の香りを漂わせている。

 どこかから聞き覚えの無い(例えるならハープだろうか)楽器の音色が聞こえてくる。かと思えば魚屋から威勢の良い声が聞こえる。

 そこはどこの世界でも変わらないんだ、と少し笑い、歩みを進める。

 また少し歩みを進めると、屋台が多く立ち並ぶエリアにやってきたようで、香辛料の効いた香りが漂ってくる。見ると肉の串焼きが焼かれ、ジュウジュウと音を立てていた。

 そういや、もう少しで昼飯の時間だったな……。


「欲しいの?」

「うわっ!!」

 

 俺は無意識的に立ち止まっていたようで、ミーナの声に少し驚いてしまった。


「良いよ、買ってあげる」

 とてとてと屋台に近づき、おじさんに声をかけて手際よく銀貨を渡す。戻ってきたミーナの手には熱々の串焼きがあった。


「はい、どうぞ!」

「お、おう……」

 

 押し付けられた串焼きは、香ばしい匂いと共に湯気を立てている。

 なんの肉だろうか。見た目では全然わからない。すでにミーナが美味そうに頬張っているのを見るに、変なものでは無いのだろう。

 かぶりつくと、ジュワッと肉汁があふれ、香辛料の効いた味が口いっぱいに広がった。


「うまっ!」

「でしょでしょ? この町の屋台、結構レベル高いんだよね!」


 なんの肉かはわからないが、豚肉に似ている。でも……なんだろう? ちょっと違う気もする。


「なあ、これって……」

「豚の肉だよ!」

 ミーナが当然のように答える。 豚肉で良いのか?

 俺は改めて串焼きをまじまじと見つめた。≪相互言語理解≫の影響で「豚肉」として聞こえるけど、実際にはこの世界独自の生き物なのかもしれない。だとしたら、この世界の豚ってどんな姿をしてるんだろう? 日本の豚と同じなのか、それとも……

 異世界の食べ物のはずなのに、なんとなく馴染みのある味に感じてしまうのは、スキルのおかげなんだろうな……。


「そういや、これって経費で落ちるのか?」

「え? なんで?」

「いや、俺バイトで雇われてるわけだし、経費とかそういうのあるのかなって」

「……考えたことなかった!でもそういうのは無いと思うよ」


 うん、やっぱりブラックかもしれない。この仕事。

 そんな会話をしていると、突然、通りの向こうから怒鳴り声が響いた。


「待てぇぇぇぇぇ!!」

 

 振り向くと、フードを被った人影がすごい勢いで駆けてくる。その後ろには、血相を変えた店主風の男が必死に追いかけていた。


「あっ、盗賊だ!」

「勇者ってこういうの取り締まるのか?」

「うーん……本当は騎士団の仕事なんだけど……」


 ミーナが呟いた瞬間、盗賊の男はこっちに向かって突っ込んできた。


「わっ!」

 

 反射的に避けると、スリはよろけて地面に転び、袋から大量のリンゴが転がり出る。


「あーあハルキが避けるから……」

「お前ら……よくもやりやがったな!!!」

 

 いや、避けなくても俺らにぶつかってたじゃん。 


「くそっ……!」

 

 盗賊は慌てて起き上がり、俺らに向けてナイフを向ける。しかし、その前にミーナがすっと剣の柄を握る。


「やめといた方がいいよ?」

「……くっ」

 

 ミーナの気迫に押されてか、盗賊は動きを止める。下がって、ハルキ。とミーナに言われる。こんな少女に守られるってのも情けないなと、少し考えたけどおとなしく後ろに下がる。

 追いかけてきた店主が息を切らしながら叫ぶ。


「お、お前、許さんぞ!」

「……チッ」

 

 自棄になったのか、盗賊はミーナに向かって突進してくる。


「ミーナ!」

「心配しないで、私一応勇者だから」

 

 ミーナが妙に嬉しそうに言うが、言いたいのはそれじゃない。


「そうじゃなくて!もう一人!」


 屋台の屋根からもう一人の仲間が飛び込んでくる。持っているのは同じくナイフ。


「くそっ!」

 

 反射的に飛び出す。俊敏は3あるんだ。勝てない相手ではないはず。


「大丈夫」

 

 ミーナはそう呟くと、落ちてきた男をひらりとかわし、そのまま腕を掴み、正面の男に投げ飛ばした。

 

「おお……」

 

 思わず俺の口から声が漏れる。見た目によらず意外と強い。やれることあるのか?俺。

 気絶した男たちにおとなしくしていて、そのうち騎士団も来るから。ミーナがそう言うと、周りの店や雑踏から歓声が上がる。まあ、かっこいいよなぁ。

 少しの間そうしていると、名乗らなくても騎士団だということがわかる、槍を携え、いかにも西洋風の銀色甲冑に全身を包んだ一団が駆け寄ってくる。


「勇者様!お疲れ様です!このような仕事までしなくても良いですのに」

「いえいえ良いんです!たまたまだったんで!」

 

 盗賊を引き渡したミーナがこちらに戻ってくる。


「お待たせ!まあこういうこともたまにあるよ」

「凄いんだなミーナって……少し舐めてた」

「えっ、それってどういうこと!?」


 頬を膨らませて拗ねるミーナ。もっと戦闘もポンコツだから仲間が欲しいのかと思っていました。はい。

 さらに10分くらい歩いたところで、ミーナがこちらに向き、建物に向かって手を伸ばす。


「着いた!ここが目的の場所、町の名物酒場、『赤熊亭(あかぐまてい)』だよ!」


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